愛鳥家ハチ

世界の終わりにはあまり期待しないでの愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

3.5
2023年第1回北九州国際映画祭にてジャパンプレミア作品として鑑賞。ルーマニア映画。邦題は『世界の終わりにはあまり期待しないで』。『アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ』(2021)のラドゥ・ジューデ監督作品。

ーービデオメッセージ
上映前、武士の兜のフェイスエフェクトがかかった同監督のビデオメッセージが投影され、その中では、小津安二郎監督、成瀬巳喜男監督、大島渚監督、今村昌平監督、原一男監督といった巨匠へのリスペクトと日本映画界に対する期待感が示されました。本作に俳句が登場していることを理由に、"本作はある意味日本映画である"との趣旨のご発言もあり。また監督ご自身が本作を評して曰く、「エロ、グロ、ナンセンス」な作品とのこと(個人的には絶妙なエロとナンセンスさは感じ取りましたが全くグロくはなかったです(あるいはビジュアルイメージとしてのグロテスクさではなく、描き出された社会的実像のグロテスクさを指していたのかも知れませんが…))。

ーーアフタートーク
作品上映後は本映画祭の作品選定プログラマーである映画監督・近浦啓氏と神谷直希氏(東京フィルメックス映画祭プログラムディレクター)のアフタートークがあり、ルーマニアン・ニューウェーブを牽引した映画作家のお話を始めとして、なかなかキャッチアップできていなかったルーマニア映画について知見を深めることができました。ここに感謝申し上げます。

ーー消化しづらい
さてこの作品自体への評価ですが、鑑賞時のコンディションがベストではなく集中力を保持しきれなかったこともあり、未だ自分の中で消化しきれていないというのが正直なところです。ただ、過去はカラー、現代はモノクロというおおまかな対比が分かりやすくはあり、過去は鮮やか(≒あの頃はまだ良かった)でありながらも現代はタイトルにもなっている「世界の終わり」(終末思想の表出というよりは日本語のスラングで言うところの"終わってやがる"的な意味合いであると理解しています)を思わせる演出に満ち満ちていました。特に主人公が開陳したエピソード、すなわち(オブラートに包むと)"現実で満足できない男が生身の人間を差し置いて仮想現実の世界に逃げ込む"というお話を聞くと、確かに"終わってやがる"と感じられ、現実社会への幻滅を誘発させる起爆剤としては十分だとも思えます。そして実入りの多くない長時間労働(主人公の言葉を借りれば「私たちは搾取(exploit)されている」)がそうした世界認識に拍車をかけます。彼女がボビータとしてtiktokの世界に逃げ込み、くだを巻くのも無理からぬことと言えるのかもしれません。

ーーUwe Boll
なお、本作において特筆すべきはウーヴェ・ボル監督(as himself)の出演です。気に入らない映画批評家をリングの上でボコしたりといったエピソードは全くの事実であり(詳細は映画『Raging Boll』において描写されています)、またFワードの多用といった発言内容もまた現実社会でのウーヴェ・ボル監督そのものでした。パンチの強い同監督が溶け込んでしまう虚構の作品世界を憂うべきか(?)、同監督の突出した個性に思いを馳せるべきか、悩ましいところではあります。ただ、スキンヘッドの虚像・ボビータの造形は、ウーヴェ・ボル監督への愛に溢れたリスペクトであることは明白ですね(少なくとも私はそう信じています…)。期せずしてウーヴェ・ボル監督の元気なお姿を視認できただけでも、本作を観た甲斐はあったというものです。なかなか刺激的な鑑賞体験となりました。
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