ゴトウ

劇場版 仮面ライダー剣 MISSING ACEのゴトウのレビュー・感想・評価

2.5
公式YouTubeで配信されていたので鑑賞。テレビシリーズでは消化しきれなかった「職業ライダー」要素を掘り下げて見せたのは面白い。しかし、諸々粗すぎて入り込めなかった。後年のスピンオフ作品で連発される「殺人事件」「探偵」のはしりっぽい感もあり。井上敏樹の趣味なのだろうか。広げるだけ広げて力技で畳みに行った印象は否めず、どういう人なのかいまいちわからないまま死んだやつがなぜか妙にひねったダイイングメッセージを残すという展開も首をかしげたくなった。スートは関係なくて肩透かしだしただの語呂合わせだし、キッズなんか余計に置いてけぼりだろうけど、「探偵」テイストをトランプと絡めてなんかやりたかったというのが見え見えで逆に愛らしい。

テレビ本編ではおざなりになってしまったコンセプトを、「人を守るのが仕事(しかも本当に雇用されて給料が出ている)なら、怪人を根絶して守り終えた後はどうなるのか?」という形で描き直そうとするのは面白い。新たな脅威に新たなライダーが出てきて対処している、というのはメタ的には次々新シリーズが出てくる一年モノのライダー自体のパロディとも取れる。映画前半、全く知らないやつらの日常パート→緊急事態に変身して対処の流れはかなりワクワクする。それだけに、テレビシリーズのメインキャラクターたちが揃い始めて以降は新世代ライダーが通り一遍の「生意気なライバル」という記号的なキャラになってしまい、挙句雑に死亡していくのが残念でした。当時平成ライダーに存在しなかった、「かつて激しい戦いを戦い抜いた先輩ライダー」としてよりによって橘さんがいるのも面白かったのに……。

結局は新しい危機が導入されて、ライダーやその周辺の人物たちは平穏な生活を投げ捨てて戦いに戻っていくという描き方をされざるを得ない(全部を新世代の後輩にお任せ、という展開はメジャーヒーローものの劇場版ではなかなか許されないだろう)辺り、職業ライダーのコンセプト自体の限界が見える。辛く厳しい戦いを忘れたいと願う睦月とか、面白くなりそうな種はたくさんあったのだけれど……。平和な世界では(元)ヒーローの剣崎と変身しない虎太郎とは交わることがなく、社会的な立場の違いによってぎこちない関係になってしまうのも妙に生々しくてよかった。掘り下げられないけど。

二人目のジョーカー、4枚のKから発生する太古の力など、本編との整合性は微妙な設定が持ち出されるのもご愛嬌なのだが、1時間ちょいの映画で2回も剣崎が始を封印する描写を入れることが、テレビ本編の結末への布石になっているのは重要でしょう。不安定な天音ちゃんから精神的な支柱を奪い、人間のエゴによって解放されたジョーカーを人間のエゴによって再封印する痛みを強調してみせる一方で、人間を救うために命を投げ出してみせる剣崎の覚悟も印象的。剣崎が命を捨てる以上の決断に至るテレビ本編か、始に犠牲を強いることになる劇場版か、二者択一が世界の命運を握るというのは変わらないが、何度甦ってきても友人を斬る覚悟が求められるという過酷な運命を描くには、やはり尺も描写も足りていない。

スキャンするカードの組み合わせで技が発動するシステムは玩具的には面白いけれど、撮る方はめんどくさいのかなと思わせるシーンも多数あった。カードスキャン描写を省略しまくり。反抗期の女の子の憎まれ口が異常に激しかったり、ニチアサでできないことをここぞとばかりに入れ込む遊び心も良い。ただ、スモークとか水飛沫で何やってるのか分かりにくい場面が多すぎる。
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