ゴトウ

ギミー・デンジャーのゴトウのレビュー・感想・評価

ギミー・デンジャー(2016年製作の映画)
3.5
公開当時観られず、永野のYouTubeで言及されていて思い出し、調べたらプライムビデオに入っていた。永野がYouTubeでのびのび語り、観損ねた映画はサブスクに入っていて後から観られる。良い時代になった。どうしてもイギーポップに目が行きがち(「イギー&ザ・ストゥージズ」だしね)だけど、あくまで「ストゥージズのドキュメンタリー」として、結成、休止、再始動を追っていた。話の内容に応じてちょいちょい映画やテレビなどの映像がサンプリングされていて、この辺にジム・ジャームッシュのセンスが出ているのかな?とも思うが、YouTubeショートとかで流れてくるAI生成の再生数稼ぎ動画にも似てる気がして、本筋のストゥージズとは関係ないことも考えさせられた。

『アメリカン・ヴァルハラ』でも思ったけれど、年齢もあってかイギーたちはパブリックイメージほど荒々しくない。淡々とハチャメチャな日々を振り返っているのがかえって怖いような気もする。貧乏から成り上がってやるぜ!的な感じも薄く、「音楽が好きでいろいろとやっているうちにストゥージズになった」みたいにサラッと話している印象だった。しかし終盤でさらりと、金持ちのいじめっ子に嫌なことを言われて絶交したエピソードが出てきて「そういう奴らはいつでも葬る」発言も出てくる。怒りや暴力性を飼い慣らして、ステージでそれを見せている人なのかなと思った。インタビューに答えているときは理知的に見えるので、ロックの殿堂でお下劣過激スピーチしてるのもサービスなんだろうな〜。太らず、かっこいいままでレコード制作もライブもやり続けるのはただのおバカにはできないよな……。ストゥージズ時代には「自分たち自身のプロ意識の欠如による被害者」だったとしても……。

お歳なのもあるだろうけれど、ハチャメチャなライフスタイルで死者も多い。ミュージシャン仲間や裏方に恵まれてサポートされているにせよ、リアルタイムでは『淫力魔人』までずっと「思ったほど売れない」みたいな状態。それでも後進には愛され続けているというのが不思議。ニコがルーリードをディスりつつストゥージズと仲良くなった、みたいな話は単純に面白かったし、ストゥージズ側がニコを尊敬しているのが新鮮だった。逆にボウイは『淫力魔人』の迷ミックスの際に、理不尽な契約をイギーポップに結ばせようとしていたみたいな話で結構引いた。ボウイ主導ではないとしてもそういう大人が周りにいて、それを御しきれてないというのがキツい。そのせいで、ストゥージズがミュージシャンたちに愛されたという文脈なのにボウイが“I wanna be your dog”を歌う映像がちょっと嫌だった……。

ギャラは折半でみんな一緒!という意味合いで「ストゥージズは共産主義者」とイギーが何度も語る一方、ドラッグでヨレてるデイヴを(自分もヨレてるのに)クビにしたりするイギーの独裁なのでは?という印象もあった。曲がりなりにもロックスター、ひいては「パンクのゴッドファーザー」などとも言われているイギーに対して、安いギャラでバンドを続けたり、勤め人に戻ったりしている他のメンバーに対してイギー自身がどう思っているのかという部分は掘り下げがなかったのが残念。横でスコットがストゥージズ活動停止以降の苦しかった日々を語っているのを聞いているイギーが、なにか語ったり表情を変えたりするかな?と思って見ていたのにさっさとカメラが切り替わってしまった。こういう種類の痛みや後ろめたさがイギーポップにはあるのか?というのはかなり気になったのだけれど……。

“We Will Fall”があるかないかでストゥージズの一枚目の凄みは全然違うと思うので、(ここではイギーも手放しで)「デイヴがストゥージズというバンドの歴史を変えた」と称えられていたのは興奮した。ジョンケイルの存在もあるし、やはりストゥージズ(というか、今日に至るまでのイギーポップのキャリア?)が今日皆が知る偉大なものとしてあるのは、様々な人との幸運な出会いによる部分が大きいのだろう。もちろん、イギーポップが傑出したアーティストであることは疑いようもないのだが(ステージダイブの元祖、しかも受け止めてもらえなくて歯が折れたとか存在がマンガだ)。

映画『ヴェルベットゴールドマイン』と、ダイナソーJr.のJが2003年のストゥージズ再始動のきっかけというのは知らなかったので驚いた。今度観返そう。
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