140字プロレス鶴見辰吾ジラ

CURE キュアの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

CURE キュア(1997年製作の映画)
4.7
和製ジョーカー

「クリーピー」を鑑賞の後、黒沢清監督の過去作を見ることにより賛否の別れ目をより深く理解できるのではないかと現在黒沢清強化月間をしております。

今作は役所広司扮する刑事が、不可解な殺人事件を追う中で捜査線上に上がった”間宮”という記憶を無くした男と接触するというサスペンススリラー。

まずOPは、精神科医と患者の意味深なやり取りからの引き込み、そして最初の殺人シーンから警察のパトランプまでの絵を陽気な音楽にて彩り、「ヤバいな…」と脳裏にポツリと一石を投じてきます。

殺害内容も、首元の軽動脈を十字に切り裂くという”いかにも”な象徴性。別作品ですが「セブン」がフッとよぎりました。

次に浜辺を彷徨う記憶喪失の男”間宮”のシーンへ。この男こそ今作のジョーカー。黒沢清作品の中でもマスターピースでしょうか?

虚ろな表情と、質問と答えが噛み合わないやり取り、フッと攻めに転じて「あんたの話を聞かせてよ?」というセリフ。これがキーです。そして全編通じて「あんたの話を聞かせてよ…」からの演出が序盤は謎に満ちながら、ゆっくと間宮の余裕を象徴するかのように種明かしというか全貌を明かしていくスモールステップ演出がワクワクしてしまいます。

追う側の役所広司は、仕事に没頭、妻に問題を抱えているとこの手の作品の刑事に相応しい苦悩性と沸点に達したときの暴力性がストレスとして観客側に歩み寄ります。

そして音です。生活音によるプレッシングを巧みに使い、カメラワークや照明の明転によるハッとさせる抜群なスリル性。

逆算された”間宮”のジョーカー性に上記が拍車をかけ、”アリエナイ”強敵を目の前に対して打つ手のない警察幹部を見るのは心地良いですし、仲間も間宮の毒牙に落ちていく”不条理性”の前に捕食者と被捕食者の関係性を見てしまった。

そしてラストシーンであるが、今作のようなカメラワークで引きつけて引きつけて引きつけ…フッと消え去ってしまう憎たらしさが個人的には見事だと思いました。鑑賞後に解釈しようと脳が回転を始めるあの感覚までも”間宮”の手によって仕掛けられたものなんじゃ?と思わせてくれる日常の侵食感が堪らない作品でした。

オールタイムベスト級入りました!