正気を保てるか。

イ・ジョンチャン、キム・ヨジョン監督、クォン・ユリ、クァク・ソニョン等の共演による韓国製作のスリラー。
幼い娘の異常な行動により、日常が変化していく主人公等の姿を描く。
主人公となる水泳インストラクターのヨンウンをソニョン、特殊清掃会社で働くミンをユリが演じているほか、イ・ソル、キ・ソユ等が登場。
物語は、誰もいない雪道を一人鼻歌を歌いながら歩く赤い服の少女の姿でスタートするため、その不穏感は満点。
次には、問題ばかり起こす7歳の娘と、それに手を焼く母親・ヨンウンの日々が綴られていくが、この娘・ソヒョンがなかなかの問題児っぷりで、特に彼女が叫ぶ金切声ときたら、不快感マックス。
その後、中盤以降はその20年後となり、今度は特殊清掃会社で働くミンと、そこに入ってきた同僚・ヘヨンを中心として物語は展開、前半とは全く違う内容となっているため、まさに2本のストーリーを観せられているかのよう。
本作品の肝は、その前半と時を隔てた後半がどのようにリンクしてくるのかにかかっており、ミステリ好きには堪らない展開となること必至。
明確には、その年代は示されなかったものの、前半ではガラケーを登場させることで、過去の話だなとわかるため、あえて説明しなくても状況をわからせるガジェットの持つ力を改めて感じたと同時に、クルマ好きの視点からすると、その前半で、私がその昔、デザインに一目惚れして、買う一歩手前までいった赤色のマツダ・MX-6らしきクルマが映り込んでいたのは見逃せないポイント。
ジメッとした不穏な空気感が常に漂い、時にグロく、時にジワジワと日常が恐怖に侵蝕されていく様は韓国作品の真骨頂とも言える仕上がりで、ラストのキレ味も素晴らしかったとともに、もし日本版リメイクがあるとするならば、ヨンウンを波瑠、娘を永尾柚乃、ヘヨンを出口夏希、そしてミンには木南晴夏をキャスティングしたい良作。

地獄に行け。

「ママも、私が怖い？」

シングルマザーのヨンウンは、水泳コーチとして働きながら7歳の娘ソヒョンを育てている。
だが、ソヒョンは同世代の子供たちとは明らかに違う。
愛犬が目の前で事故死しても表情一つ変えず、「早く次を買おう」と言い放つ。
幼稚園では危険な遊びを仕掛けて友達を怪我させ、退園に追い込まれてしまう。
夫は恐怖を覚えて家を出ていき、母親は孫を庇うばかりで相談相手にならない。
ヨンウンは孤立したまま、「家族」という枠の中でサイコパスの娘と向き合わざるを得なくなる。


韓国映画らしい、人間の業を煮詰めてどろどろにした今作。
前半はサイコホラーとしての圧がすさまじい。
7歳の少女が一切動じない表情で日常を壊していくのは、怪物より恐ろしい。
特にソヒョン役キ・ソユの演技が抜群で、観客は心底不気味さを突きつけられる。

後半はややミステリー寄りになる。
テーマ自体は伝わるけれど時間を割くのはそこじゃなくない？と惜しい気持ちもある。
前半の爆速のスピードに慣れてしまったせいで、視点をずらされた時に失速感を覚えてしまったのかもしれない。

それでも、もし家族がサイコパスだったら？という命題を真正面から叩きつける力は最後まで強烈だった。
ファンタジーに振り切らず、現実に逃げ場のない地獄を描くからこそ後味が悪いし、観終わった後も考え込んでしまう。
私も侵蝕されてるぅ、、、(>︿<｡)


⚠️ネタバレ感想はnoteに
https://note.com/chinaco_cinema/n/n19a1da785744?sub_rt=share_sb

あらすじからも分かる通り、物語は二部構成で展開され、章ごとに積み上げられる人間関係や嫌悪感の蓄積は一度リセットされる。そのため、過去と現在が結び付く瞬間には強いカタルシスが期待される構造となっている。

しかし、物語の中に仕掛けられたギミックが推進力として機能していたかは疑問が残り、全体のトーンは淡々と進行していく分、スリラーとしての痛快さや感情の爆発には乏しい結果に。

静かな不穏さが陰鬱な空気感を形作っているものの、強烈な余韻を求める観客には物足りなく映る作品かもしれない。