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遺愛の作品紹介

遺愛のあらすじ

実家で母の介護を続けていた藤井佳奈(山下リオ)が、ある日、妹・杏里(小川あん)のもとを訪ねてくる。佳奈は血色が悪くやつれた様子で、自分たちの母が“もう母ではない、何かになってしまった”ことを告げる。 父の死を機に実家に戻り、献身的に母の介護を続けていた佳奈。だが彼女は、話しかけてもほとんど無反応で、食べ物をこぼし、部屋を散らかし、ときに突然噛みついてくる母に対して次第に苛立ちを募らせ、疲弊していく。 そんななか、佳奈の周囲で不幸な出来事が立て続けに起こり、彼女はその原因が母――今はもう母ではない“何か”――による呪いだと考えるようになる。そしてその呪いの次の標的は、一家と懇意の精神科医・熊谷(マキタスポーツ)、さらに次は勇太の番なのだと。 果たして、佳奈が言うように本当に呪いが存在し、家族に危険が迫っているのか。それとも、介護に疲れ心身ともに限界に達した彼女が生み出した偽りの真実なのか。佳奈と共に母の暮らす実家へと向かった杏里は、そこで驚くべき光景を目にする。

遺愛の監督

酒井善三

原題
公式サイト
https://tx-iai-movie.jp/
製作年
2026年
製作国・地域
日本
上映時間
90分
ジャンル
ホラー
配給会社
ライツキューブ

『遺愛』に投稿された感想・評価

kuu
3.8
『遺愛』
製作年 2026年。上映時間 90分。
映倫区分 G 製作国 日本

家族という密室の中で、静かに、しかし確実に日常の輪郭が溶け落ちていく恐怖。

酒井善三監督と大森時生プロデューサーが仕掛ける『遺愛』は、いわゆるジャンプスケアに頼る幾多あるJホラーとは、明らかに一線を画してる。
待っているのは、五感をじわじわと侵食するよな、逃げ場のない関係性の恐怖そのもので、今作品は、ワンシチュエーションに近い閉塞感の中で、現代社会が目を背けがちなタブーをエンタメの枠組みで炙り出している。
まぁ、それが凶と出るか吉と出るかは観る者次第と云えます。

今作品テレビ東京の深夜枠で放った『このテープもってないですか?』とかのDNAが、劇場映画というフォーマットへ移植されている点、モキュメンタリー的な不穏さを現実の地続きとして描き出す手腕は、今作品でも健在で、記号化されたJホラーの枠組みを解体し、むしろ黒沢清監督の『CURE』を何となくながら彷彿とさせるようなサイコ・サスペンスへと展開させている。
90分という無駄のないタイトな上映時間に凝縮した構成力は、今作品において特筆に値するかな。

この歪な世界観を支えるキャストの熱演もまた、作品の強度を何倍にも引き上げている。主演の山下リオが演じる、献身の果てに精神の均衡を崩していく佳奈の姿は、緊張感がありました。
単なるイカれた人ではなく、最初はどこにでもいる優しい娘として登場するからこそ、そのグラデーションのような変貌が恐ろしかった。
彼女の訴えに戸惑う妹・杏里を演じる小川あん の、作中の現実に同調するような佇まいも実に善かった。
さらに、一家と懇意にする精神科医・熊谷役のマキタスポーツが、怪作にスパイスを添えていたし、個人的には好きではないが、彼の持つ独特の日常感が、作中の非日常的な異常事態をより一層際立たせる触媒として機能していることは確かでした。

今作品を少し掘り下げると、佳奈の陥る状態はまさにパラノイア(偏執病)における系統狂気の構築プロセスそのものです。
パラノイアの本質は、知能や論理的思考力が保たれたまま、特定の妄想だけが異常に強固なシステムとして脳内に完成してしまう点にある。
劇中での佳奈は、決して支離滅裂な言葉を叫ぶわけではない。
むしろ、身の回りで起きる些細な不運――例えば、引き出しの鍵の位置が変わっているやとか、母の体調が急に悪化した何ていった断片的な事実を、驚くほど緻密な論理で一つの巨大な悪意の陰謀へと結びつけていく。
これってのは、現実にも起こる、意味への過剰同化に他ならない。
不条理で過酷な現実、母の認知症の進行や孤立をそのまま受け入れることは脳にとって耐え難いストレスやから、あえて誰かが自分たちを呪っている、陥れようとしているちゅう明確な敵を設定する。
そうすることで、混沌とした世界に、敵と戦う自分ちゅう歪んだ秩序と生存理由を創り出し、自我の完全な崩壊を防ごうとする哀しい防衛機制が克明に描かれている。

ここで補助線を引くなら、パラノイア(偏執病)、酔っぱらい、薬物幻覚の決定的な違いは、意識の鮮明さと、症状の正体にある。
酔っぱらいが酒によって意識がマヒ、混濁し、理性が失われ、千鳥足や呂律が回らへんって運動機能の低下を中心とする状態であり、薬物による幻覚が脳の知覚の狂いによって、意識の鮮明さに関わらず目の前にない虫が見えたりする幻視や、声が聞こえたりする幻聴のために五感に支配される状態であるのに対し、パラノイアの意識は完全にシラフ鮮明。
幻覚は見えないが、自分は狙われてるって強固な思い込み、妄想を極めて論理的に組み立てて信じ込む。
簡潔に書くならば、
意識と身体がマヒするのが酔っぱらい、
五感が狂うのが薬物幻覚、
佳奈のように、思考そのものが狂うのがパラノイアの本質に他ならない。

この心理的パラノイアを急速に加速させる燃料となっとんのが、社会学的なアプローチ、すなわち現代日本の家族論のバグと、ヤングケアラーや老老介護にも通じる過酷な密室介護問題といえる。
近代家族は、外部の冷たい社会から個人を守る温かいシェルターとナンチャラ学問は定義してきよった。
しかし今作品が暴くんは、そのシェルターがひとたび閉鎖回路になりゃ、外からの救いの手が届かない絶対的監獄へと反転するちゅい恐ろしい実態。
父の死という唯一の結節点を失った瞬間、佳奈と母の二者関係は社会から完全にロストする。
ドイツの社会学者ウリリヒ・ベックってオッサンがこう云ってる、
『現代は、昔の縛りから自由になった反面、すべての問題が自己責任になる時代』やと。
今の介護はこの言葉通り、国や福祉が支えるという建前がある一方で、現実の現場は今なお古い価値観に縛られてる。
親孝行や家族の絆というきれいごとが個人に犠牲を強いる空気を作り、他人に頼ることは身内の恥という世間体が強力なプレッシャーとなってる。
その結果、せっかくの制度を使えず孤立し、最終的には介護で行き詰まったのは自分のせいという自己責任論に追い詰められていくのが、現代の介護のリアルな姿のひとつじゃないかな。

佳奈を追い詰めるんは、物理的な重労働だけではなく、自分がこの人を看取らなけりゃ、この家族の歴史すべてが無に帰すちゅう、内面化された自己責任論の呪縛で、ワンオペ育児ならぬ、ワンオペ介護の極限状態の中で、他者を信じるコストが高騰しすぎた結果、彼女は、外部=すべて敵という極端な社会的不信、ソーシャル・ディストラストへと陥っていく。

こないな、密室の介護、狂気と現実の境界、そして家族という呪縛に肉薄するアプローチは、近年の海外のスリラー映画とも深く共鳴していんじゃないかな。
例えば、認知症の老母の変貌を家全体の物理的な侵食として描いた『レリック -遺物-』(2020年)は、介護者が直面するかつて愛した人が別の異形へと変わっていく絶望的な孤立感をホラーに昇華させており、今作品の閉塞感と完全に一致する。
また、アルツハイマーの母親を追うモキュメンタリー『悪魔の存在を証明した男』(2014年)が描いた、医学的現実とオカルト的妄想が混沌と溶け合うプロセスの緻密さは、大森時生プロデューサーらが仕掛けるフェイクの不穏さや佳奈の系統狂気の構造と地続きにある。
さらに、認知症の父親の視点から世界の崩壊をアカデミックに捉えた『ファーザー』(2020年)のような心理的迷宮を、今作品は介護者側の視点から冷徹にひっくり返して見せている。

あえてネガティブな側面を突くならば、あまりにも重苦しく、救いのないディスカッションドラマが続くため、エンタメとしての爽快感や、明快なカタルシスを求める層には少々しんどいかも。
全編に漂う、湿り気のある不穏な空気感は万人受けするものではなく、上映終了後もしばらく心に澱のようなモヤモヤが残り続けたし、でも、それこそが製作者たちの狙い通りなんやろうな。

『遺愛』というタイトルが示す通り、遺された愛ってのは、時として当事者を縛り付ける最も残酷な足枷になり得る。
単にお化けが怖いという次元を超え、洋画の最先端スリラーともリンクするよな、いつでも誰もが狂い得るシステムを現代日本の地獄絵図として描き切った今作品の熱量は、間違いなく平均点以上の確かなインパクトを脳裏に刻み込んでくれた作品でした。

あらすじ・キャスト。
父の死を機に実家に戻り、認知症の母の介護を始めた佳奈。母との時間を取り戻すかのように献身的に介護にあたるが、母の不可解な言動は徐々に常軌を逸したものになっていき、周囲で起こる異変にも違和感を覚える。やがて、母の内側に何かが入り込んでいるような感覚にとらわれた佳奈は、この世のものとは思えない“何か”の存在に狂わされていく。

主人公・佳奈を山下リオが演じるほか、佳奈からの訴えを聞いて実家に駆け付ける妹・杏里役を「石がある」「彼方のうた」など主演作が相次ぐ小川あん、佳奈や杏里の家族とある出来事をきっかけに親交を持った精神科医・熊谷役をマキタスポーツが演じる。
ぶみ
3.5
世界は呪いで溢れている。

酒井善三監督、山下リオ主演による恐怖映画。
母の介護を始めた主人公に巻き起こる不可解な出来事を描く。
主人公となる藤井佳奈を山下、妹の松永杏里を小川あん、一家と懇意にしている精神科医の熊谷太一をマキタスポーツが演じているほか、藤井京子、瀬戸さおり、関口アナン、市野叶、小島叶誉等が登場。
物語は、紅葉が美しい庭を眺める老婆が映し出されたかと思いきや、火のついたコンロの前で倒れている男性が一瞬映し出された後、葬儀の収骨のシーンとなるため、矢継ぎ早に情報が繰り出されるオープニングとなっている。
実は、倒れて亡くなっていたのは、佳奈の父であり、一人残された母親を介護するため、佳奈が実家に入ることに。
そんな佳奈が憔悴しきった様子で妹の杏里を訪ねると、サッカーの練習で出かけている杏里の子どもの勇太が危ないので、早く帰らせるようにと言ってみたり、母が呪われているのは私のせいだ、としてみたりと、明らかに平常ではなく、何かが実家で起きていることがわかることとなり、以降、佳奈が母の介護をしている様を回想として描きながら展開。
実際、その介護のシーンでは、母は話しかけても無反応、食べ物をこぼし、部屋も散らかし、攻撃的となっているのに加えて、何かが見えているようなそぶりも見せと、認知症っぽい症状かなと思わせており、そんな母を介護していて苛立ったり、疲れがたまっていく佳奈の様子は、リアリティ溢れるもので、もはや他人事ではない。
そんな佳奈の周りで、様々な不幸な出来事が起こるようになり、現実なのか、はたまた疲れやストレスからくる妄想なのか曖昧模糊となっていたのは、まさに呪いではと思わせる演出で、楽しめた次第。
クルマ好きの視点からすると、途中にある葬儀のシーンで置かれていた霊柩車が、メルセデス・ベンツの4代目Eクラスをベースとした真っ白なモデルであったこと、また、杏里が乗っていたのが、三菱・デリカミニの最新型であったのは見逃せないポイント。
某番組で、酒井監督が、これはホラーではなく恐怖映画だとしていたように、ジャンプスケアを始めとした所謂ホラー的な演出は皆無であるものの、一体何が起きているのかわからないゾワゾワ感が常に迫り来る作風は、まさに恐怖映画だったとともに、カリフラワー入りのカレーは食べたくないと思う一作。

だって寝たら、夢見ちゃうでしょ。
symax
3.8
"アレね、お母さんじゃないの…"

父が亡くなり、認知症の母を一人で看ていた姉の佳奈が、妹杏里の元に駆けつけた…姉の様子はただ事ではなく、しかも甥の勇太が呪われていると言い出したのだ…妹が問いただすと、姉は驚愕の事実を語り出したのだ…

ちょっと"世にも奇妙な物語"のようではあるが、余白を上手く利用した見せない恐怖満載のホラー…

介護に疲れ、精神を病んでしまった姉の妄想なのか、それとも姉がいうとおり、母の身体を乗り取った"何か"の呪いなのか、境目が曖昧で恐怖の塩梅が丁度良い。

ただ一点、マキタスポーツはちょっとミスキャストでは?
すごく良い役者さんで、私も好きな方ですが、本作での熊谷のおじさん役はちょっと浮いているように見える…精神科医にも見えんし…

愛故の悲劇か、それとも呪いか…余白と行間の空気感がたまらない…

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