【リメンバー・ミー】
岩井俊二が描く私たちが理想にしている日常は、少しばかり地に足のつかない浮遊感のある熱を帯びて非日常という映画の中で流れていく。“死“が引き寄せた奇妙な文通は、“忘れられない“そして“忘れたくない“あのときへと誘っていく。
職場で母を亡くした女の子の相談を受けたら、私が父を亡くしたときに抱いていた感情と同じで私が先にティッシュに手を伸ばしていた。
きっと何処かに、何処かで元気にやっているんじゃないか、ひょっこり顔を見せてくれるんじゃないか…
美しい旋律に抱かれながら見る非日常という映画の枠の中に流れる体温は、奇妙だけど続きを見たくなり、そしてその中で突き刺してくる“死の影“に恐怖する。
それでとあのときの思い出がこの映画のようにまた熱を持って帰ってきてくれるのではないかと期待するのに充分すぎる優しさがある。
ミステリーやサスペンスとかではないもっと暖かい、寒い冬のストーブやホットミルクのような、そんな。
きっと日常では起きないだろうが、それを映画の中で肩代わりしてくれる日常の期待感を程よく伝えてくれた。何よりお爺ちゃん、あんた頑張ったよ!
そしてやまびこに託した各々の思いや、図書館カードに刻まれた“存在“した紛れもない気持ちという形のない体温に心は白く、そして鮮やかに。