CureTochan

ゲームのCureTochanのレビュー・感想・評価

ゲーム(1997年製作の映画)
5.0
ネタバレ注意!!






大昔に観たけど、このたび娘たちと再鑑賞して、無事リビングは大騒ぎとなった。Wikipediaかなんかに、熱狂的に好きな人がいる映画である、と書いてあったけど、私も多分そっち側。終わってみれば、ありえない、だけど映画が終わるまでそれを感じさせないストーリーテリングのうまさは魔法であり、作者および、娘たちに見せた私の勝利だ。ジミヘンやVan Halenを聴けば、エレキってこのレコードを作るために発明されたんだなぁと思える。同じように本作は、映画はこういう風に使うんやで、と言われた気になる物件の一つだろう。セックスも映画も人生も、もっぱら結果より途中のためにある。少なくとも途中で、そう思えるほうが良い。だから結局、私にとってフィンチャーはノーラン監督と似てる。セブンだって絶対二度とは観たくないし。

ていうか、なかなかここに感想が書けなかったのは、観始めた映画を脱落ばっかりしていたからだ。年のせいで目も悪いからか、どうも昔の映画は画質が悪くて困る。男ばっかりで登場人物の区別がつかない「カリートの道」、「ヒート」。そして最後が「タクシー・ドライバー」なんだけど、これは冒頭の会話から、もうデ・ニーロの相手が何を言ってるのかわからない。そこでredditのフォーラムを検索したら、なんと当時のニューヨークでだけ使われていた表現らしく、英語圏でもわからないらしい。それでイライラするからこの映画は観てない、と言ってる奴もいた。画面もテレビドラマみたいな標準レンズ、バストショットばかりで退屈だし。シビル・シェパードを連れ出した安っぽいカフェのシーンから先に進めない。きっと、「終わったあとに何も残らない」という批評の対極は、終わりまでたどり着けないなのだ。何も残らないのに終わりまで見せるなんてすごい手腕であり、マジックだ。
またデニーロもアルパチーノも引きが弱いっていうか顔が好きじゃないし、考えが読みにくいという主役としては致命的な問題がある。これがスターじゃなくて名優と呼ばれる所以か。そういや先日、蓮實重彦が西島秀俊のことを「とんでもない役者」と、面白い言い方で一応ほめてて笑えた。

本作の主人公やプロットを「クリスマス・キャロル」になぞらえた英語の批評があった。だが、われわれ日本人もスクルージみたいな性格傾向があるから、冒頭でキャラの偏屈さを演出した部分がわかりにくい。特に 知人の結婚式に対する冷たい態度なんて、あれ日本では割と普通かも?
ともあれマイケル・ダグラスの折り目正しい演技は、あの時代のおっさんをいきいき描いている。そして何を考えてるか、手に取るようにわかる。

ただクリスマスキャロルと違い、起こることにどうみてもちょっとだけ悪意が感じられることが、大きく話の印象を変えている。人の心を、飛び降り自殺するところまで追い詰めたら、普通は予測不能なことになったり、生還してもトラウマが残ったりするだろう。だがそこを忖度しなかったのは、誰よりも観てる我々自身だった。むしろどこまでも彼が騙されていたというオチを、期待するようにできている。リアリティよりも映画のツイストとしての要請が優先するほどに、客は映画に侵入される。主観視点を維持するため、なるべくカメラを切り替えず1台で撮るようにしたらしい。

この兄弟の関係から、最近観た「ソー:ダーク・ワールド」も思い出した。だがレネ・ルッソは出てこなくて、ただショーン・ペンの存在感ていうか人の魅力は冒頭から光り、あまり出てこないのに物語を引っ張って、オチも成立させる。全体は「セブン」にも似ているし、「バニラ・スカイ」にも似ているし、「トゥルーマン・ショー」にも。映画は終わったのに、まだ実は裏がある感じは残り、現実感はないままだ。

このハッピーエンドの不気味さが完成度を損ない、高く評価しにくい理由にもなっている。では、どうしたら不気味じゃなくなっただろうか?・・もう監督を替えるしかない気がする。

主人公は、48歳つまり男の更年期であり、よく公務員のオッサンが謎の万引きして捕まる年齢だ(私調べ)。父親はその年齢で飛び降り自殺しており、詳細は明かされないから、実際それっぽい。向こうには男の更年期についての48 crashというスージー・クワトロの歌まである。その父親の形見の腕時計を18歳のときに母親から贈られたことが、裏に彫られていて、彼は家族と、親の愛情を思い出す。でも仕方なくそれを売り飛ばしてメキシコから帰ってくる。時計はパテック・フィリップらしいんだけど、旅費に足りないってことは買い叩かれたのだろう。ニコラスは年収200万円生活の経験値を得た。

主人公の人柄は変化したようだが、たぶん本当には人の心を理解してなくて、ただ妥協を憶えたぐらいの感じかもしれない。最後のオチも、やはり完成度は高くない。たとえば最後にいい感じになる女との関係も唐突である。なんかこう、いやいや取り付けたラストみたいだ。でも最後だけ自殺だったとしても、そこまでが楽しい人生ならOKだと思う。
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