マンボー

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花のマンボーのレビュー・感想・評価

3.8
1980年の夏公開、1972年に日本に復帰した沖縄を舞台にしたシリーズ第25作。

高倉健さんの網走番外地の南国の対決は、1966年の作品で、返還される前の沖縄の様子が窺える作品だったが、本作では返還後、屈託なく暮らす沖縄の人々の自然な姿が見られる作品。

これまでは、本題とは別のエピソードが組み合わされていたのに、本作は完全にワンエピソード。だから、物語としてはややあっさりしているが、分かりやすくて見やすいとは思う。

ハイビスカスの目に鮮やかな色彩が、浅丘ルリ子演じる場末の酒場の歌い手・リリーの独特のお化粧によるエキゾチックな魅力にも重なっている。

旅ガラスのリリーが沖縄で急病に倒れて容体もよくないらしい。とらやに舞い込んだ手紙に沖縄に急行する寅さんと、寅さんの懸命の看病ぶりに生きる意欲を取り戻し、医師の話に素直に従うようになり、順調に回復してゆくリリーとの沖縄でのままごとのような擬似夫婦生活を描いた作品。

はた目には、いかにも世馴れたふうの二人なのに、互いに照れがあって、相手の想いに踏み込めず、おぼこい様子のつたないやり取りが、切なくもじれったく、最後にはいかにも物哀しい一編。

それにしても、今作の後半は寅さんの甲斐性のなさがクローズアップされていて、少々さみしかった。そして毎回、激情をぶつけ合って離れ離れになるのに、互いにどこかで出会うと、前回のケンカのことなどすっかり忘れて、抱き合わんばかりの感激の再会になるのは、不自然だけれど羨ましい限り。

二人が所帯を持ってしまうと、ストーリーはこれまでのようには運ばず、ちょっと浮世離れした意外性は失われてしまうけれど、二人にはどうか満たされた幸福というやつをしみじみと味わってほしいと、虚構にも関わらず思わず肩入れしてしまう。

昭和の中盤から後半にかけて、寅さんやリリーさんのような、普通の社会をはみ出し気味で生計を立てる人はどんどん減っていって、誰もが社会の歯車に組み込まれていってしまったけれど、そうはならずに不器用な生き方をした貧しい人にも、安寧の老境が迎えられる社会であってほしいと願ってしまう。