マンボー

東京自転車節のマンボーのレビュー・感想・評価

東京自転車節(2021年製作の映画)
3.8
若き青年映画監督が、コロナ禍の煽りを受けて、金も仕事もないからと、山梨の実家からカメラを回して自転車を漕ぎ出し、コロナ禍ど真ん中の東京に向かって、複数の友人宅や宿泊施設に泊まりながらウーバーイーツの配達をはじめ、その過酷な実態をほぼ監督一人の手であまさず映した実録ウーバー残酷物語。

台風の中、一定の配達数をこなすとボーナスが出る生半可ではない配達数に設定されたクエストを達成するべく、ギリギリの精神状況で思いのたけを口走りながら、自転車で駆けずり回るシーンの労働者、使われるものの哀切が胸に迫った。

スマホとゴープロと呼ばれるアクション用のカメラを使って、たとえお金がなくても、チャレンジ精神と体力、アイデアがあれば、人の心を動かす作品を作ることができる本当に良い見本。まさしくコロナ禍の大都市にまっすぐに飛び込んで、新型コロナとウーバーイーツを組み合わせて、貧富や格差の広がりという現代のひずみを見事に切り取ってのけた作品。

ほとんどたった一人、自作自演で動きの多い撮影をしながら、アングルや映像の質が悪くないことはこの青年監督の工夫とこだわり、そしてカメラの性能の向上によるものだと思うけれど、それにしても驚異的だと思う。

戦後に流行った節回しのダサかわいい唄も悪くない。いやむしろ、その映像技術に反してあか抜けず、愛すべき不器用な監督の佇まいにも合っていて、ちょっと……、いやいやとてもいい。