マンボー

映画:フィッシュマンズのマンボーのレビュー・感想・評価

映画:フィッシュマンズ(2021年製作の映画)
4.0
フィッシュマンズというバンドのことも、その曲も知らなかったけれど、その時代に居合わせたので、その空気を理解しやすく、決して無下にはできないドキュメンタリーの力作だった。

何かに真剣に打ち込んだとき、共同作業をしていて主導的な立場にいると、周りにちょっと厳しく接してしまうとか、要求が高くなるということはいかにもありがちで、それが嵩じて人が離れてゆく現実に繊細な芸術家は心を痛めて、衝動的に後戻りのできない選択をしてしまった哀しさと虚しさに、彼のいない世界を生きる我々が学ぶことが確かにあるなぁと。

バンドの始まりと終わり、各人の生き方やたたずまい、芳しくなかった売り上げ、それらを着実に追いながら、訪れる悲劇と、元通りにはならなくても悲劇からの再生までを映して見応えがあった。みんな、真剣で一生懸命なのがいい。でもみんな、真剣で一生懸命過ぎたから、ブレーキが効かなかったんだろう。やり過ぎってのは、時に素晴らしいし感動するけれど、狂気や怖さをも内包しているし、それが結局、何を生むのかを活写した秀逸な記録だとも思う。本作は笑えない。でも、ちょっと笑えるくらいの隙間や無駄、いくばくかの余裕があってこそ、よりよく生きて、暮らしてゆけるのかもしれないと思う。