マンボー

由宇子の天秤のマンボーのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.1
ちょっと狙い過ぎのようではあるけれど、主人公を円の中心に据えて、彼女が関わるいくつかの社会に、それぞれ葛藤が生じる事態を作り、各々の葛藤が互いに影響を与え合う構図を作ってしまえば、一つ一つのストーリーは案外シンプルでも、混ざり合うようにテーマを掛け合わせることで、万華鏡が生み出すような、規則性がありながらその効果の予測が難しい、奇妙なほどに複雑で、それでいて美しくも見えるストーリーを生み出すことができる好例。

主人公の佇まいや微妙な境遇、その設定はそれなりに巧いし、本当は幼く見えないはずの少女を、撮り方でそれらしく撮っているのも工夫を感じる。

全ての人物が、見る角度を変えると、全く違った人物に見えるという、極端になりうる設定でありながら、違和感がなくかえってリアリティを増すような描き方、物語の進め方も秀逸。器用さはないのに、いくつかの構造にずるいほどの巧みさを感じる秀作で、若く有意な人にこそ、より一見を勧めたくなる際立った作品。

人間の複数の葛藤が時に並んで、時に重なりせめぎ合い、時に挟み撃ちをする構造が面白く、中盤から後半にかけて、まるでいくつもの言葉の意味がそれぞれに作用し合って味わい深い、短歌の名歌の宇宙に引き込まれたような感覚になった。