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カルのmatsuitterのレビュー・感想・評価

カル(1999年製作の映画)
3.3
猟奇殺人を追う刑事モノの韓国系サスペンス。

ネタバレ禁止な脚本が素晴らしい。面白さのポイントは、説明少なめで静かにストイックに展開するところ。編集力で飽きさせずに非常に濃い内容に仕上げている。微細な表情に注目するカメラワークが綺麗で主演女優の表情がどんどん好きになった。ちょっとグロいのも刺激的。怪作好きにオススメ。


以下ネタバレ。


好きなところは脚本・編集とカメラワークです。

脚本と編集が1番の売り。思い返してみれば身近な人が犯人というのはミステリーの定番プロットであるが、鑑賞中は完全に先読みを封じ込められてしまった。私は犯人の予想は毎分していて、出てきた瞬間にコイツかもというのがあるわけだけど、途中の展開的にでコイツはやっぱり違うだろという気がしてしまい、まんまと術中にハマった。これは脚本と編集の構成力がなせる業だ。特に終盤は視点スイッチが非常に劇的だった。

この脚本の面白さの根幹には、映像やセリフでぜんぜん説明しないということがあげられる。最後のCDプレイヤーの写真や、部屋の死体については、その意味解釈を映画内で全く説明しない。微妙な分かりづらさは想像力を掻き立て、その背景の深さを実態以上に恐怖を抱いてしまう。

本当に理由がわからない部分が結構ある。そして意味がないのか解釈の余地があるのか悶々とするのが結構楽しい。まずはじめ主人公刑事が母の治療費の件で糾弾される理由はあったのか?次に、切断してパーツを混ぜたり分かりやすいところに捨てたりする設定。それから、彼女の監視カメラを設定したのは誰なのか?MediaArtの部屋にヒロインの写真とビデオがあったのは誰が何のため?父親はどうなったのか?終盤に女友達が風呂場で輸血袋の血を撒き散らすのは何?などなど。

分からない部分だらけでは観客はついていけなくなるが、プロットを進める上で必要な部分が少しずつ見えてくるというのが本作の脚本と編集の良いところである。

カメラワークも地味ながら非常に丁寧。主演女優が初めて映像を見るときの表情は刑事の演技も相まって素晴らしすぎるシーン。彼女は終始無表情を貫いているがゆえに、刑事の部屋で泣き出したり、飛行機の中で笑顔を見せたりすることで、観客は些細な表情の違いを深く感じ取ってしまう。

主演女性が自宅で突然気絶して病院に行くシーンも、何も写していないのに緊張感が尋常ではない。Media Art のシーンでは車で顔が見えないとか、702の部屋にたどり着いた刑事を追い込むときの顔を写さないショットもうまかった。 容疑者の男が隠しカメラを意識して刑事を逆に見返しているときの表情も思わせぶりで忘れられない。別のタイトルをつけるとしたら「表情」としたいほどである。

高速道路の事故はとても綺麗に玉突きしていてかっこよかった。

最後ネガティブな点。

これは私の問題だが韓国人の名前はぜんぜん覚えられない。

それから意味不明な箇所が多すぎるのはマニア向けになりがち。冷蔵庫に入っていた頭が誰だか分からなかったりして、これはわかんなくても大丈夫だっていうのが少しあとになって説明される。こういう部分が随所にある。ロストする人も結構いそうなので、もうちょっと説明してくれても良かったかも。
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