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奇跡の丘のkuuのレビュー・感想・評価

奇跡の丘(1964年製作の映画)
3.7
『奇跡の丘』
原題Wuthering Heightsは、
1964年 。104分。伊太利・仏国映画。

ストーリー。
「マタイによる福音書」に基づいて処女懐胎、イエスの誕生、イエスの洗礼、悪魔の誘惑、イエスの奇跡、最後の晩餐、ゲッセマネの祈り、ゴルゴダの丘、復活のエピソードが描かれている。ウィキペディアより抜粋。

イエスは、ユダヤ民衆の『メシア待望』が生み出した架空の人物であるちゅう前提で書かれた吉本隆明の
『マチウ書試論』
という評論を読んだことある。
あくまで革命家としてのイエス・キリストを浮き立たせた著作。
その吉本隆明と同じ視点から
コミュニズム(共産主義)が根強く内面にあるピエル・パオロ・パゾリーニ監督も、ナザレのイエスを革命家とした視点からとらえた上で、
今作品『奇跡の丘 』の原案と脚本も担当しなが描いたのかと思う。
キャストは、皆素人の役者やけど味があった。
むしろプロの俳優じゃないのに
『驚き桃の木山椒の木ブリキに狸に洗濯機』並み?にええんだなぁ。
ほんでモノクロやし、ドキュメンタリー風にも錯覚さえしてしまう映像。
ドラマティックでも、
ドラスティックでもなく、
無駄がないシンプル。
主観的じゃなく忠実に、
『マタイによる福音書』の文体を映像化に試みてる感じかな。
冒頭マリアが処女懐妊し、ヨセフに聖霊が受胎したことを告知するとっから始まる。
マリアとヨセフと天使が登場して言葉を発すんのは、天使の受胎告知だけ。
マリアとヨセフの会話はnothing。
だけど、互いにアイコンタクトをして、恥じらいも見れるように眼を逸らし、時が静かに流れ、やがて微笑を交わすのみ!
ニクい演出すわ。
『マタイによる福音書』は他のマルコ、ルカ、そしてヨハネに比べて文体に無駄がない。
マタイ伝は心理描写に陥いることもない簡潔文体やし、パゾリーニの演出も、
マタイ伝スタイルを踏襲しとる様に、
会話じゃなく動きの中、
役者の表情の中、
思いをシンボル化する様に、
役者は余計な演技は極力させてへん。
マルコ伝は叙述がシンプル且つ曖昧。
ルカ伝は過剰にセンチメンタル。
そして、ヨハネ伝はあまりにもミステリアス。
私的ながらそう感じます。
伝書の中でもマタイ伝だけが、イエスの内に秘められた見えへん暴力性と孤独感、つまりその存在の深層心理を見据えた上で述べてると、小生は感じます。
ナザレのイエスの誕生から死。
ほんで、復活まで必要最小限の事実だけを端的に述べるという姿勢を崩そうとしてない映画やし、興味がない方にはとーっても退屈に感じるかも知れませんね。
若きマリア役は女優のようなエレガントさはないけどめちゃ美しい。
天使役の少年も少女みたいで美しい。
ほんで、サロメを演じる少女は悪徳や悲劇性のかけらもなく天使の如く美しかった。
作品のオリジナル音楽は、
ルイス・エンリケ・バカロフで、
J・S・バッハの『マタイ受難曲』などなどっす。
一部ネットより抜粋します。

Wir setzen uns mit Tränen nieder
und rufen dir im Grabe zu:
Ruhe sanfte, sanfte ruh’!
Ruht, ihr ausgesognen Glieder!
Ruhet sanfte, ruhet wohl!

我らは涙流してひざまずき
塚に眠る汝に呼びかける

眠れ安らかに 安らかに眠れ
疲れ果てた四肢を休めよ
眠れ安らかに 安らかに眠れ

Euer Grab und Leichenstein
soll dem ängstlichen Gewissen
ein bequemes Ruhekissen
und der Seelen Ruhstatt sein.
Höchst vernügt,
schlummern da die Augen ein.

汝の眠る御墓は
迷える心を安らかに支え
魂に休息の地を与える

至上なる安堵に包まれ
まどろみの中 瞳は閉じゆく
kuu

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