シズヲ

西部の男のシズヲのレビュー・感想・評価

西部の男(1940年製作の映画)
4.0
首吊り判事ロイ・ビーンの台頭、土地を巡るカウボーイと農民の対立など、開拓期終盤の匂いが顕著に漂う西部劇。本作は何よりウォルター・ブレナンに味があって良い。些細な事件でも絞首刑に処すような残忍さを持ちながら、何処か飄々としてて間が抜けているロイ・ビーンの人物像が魅力的。大ファンである女優のリリー・ラングトリーの話になるとあっさり丸め込まれる滑稽さも相俟って、悪党なのに何故だか憎めないという人間味溢れるキャラクターになっている。名バイプレイヤーであるブレナン、こういうユーモラスな演技がやっぱり似合うんだなあ。中立的に立ち回るゲイリー・クーパーはそこまで際立ったキャラクターではないものの、ブレナンとの対比がしっかりと効いているので十分に格好良い。

強権的で横暴な裁判に示される西部開拓時代の“私刑”じみた気風を描いているものの、全体としてはユーモアが散見されているだけに重苦しくなりすぎない程度の塩梅に収まっている。クーパーとブレナンが酔い潰れて二人で狭苦しく寝ている描写など、フフってなるような場面がちらほら見受けられて微笑ましい。友情とも取れる男二人の奇妙な関係もユーモラスで味わい深く、それだけにラストの情けにも(ロイ・ビーンは間違いなく暴力的な人間なのに)グッと来てしまう。撮影もなかなか印象深くて、終盤の焼き討ちのシーンは最早スペクタクルに等しい迫力。それ以外にも畑の前で農民達が祈りを捧げるシーンや全てが焼け落ちた土地でヒロインが聖書の一説を唱えるシーンなど、要所要所の洗練されたカットもまた秀逸。劇場での一騎討ちというシチュエーションも新鮮かつ劇的で面白い。

とはいえあの所業をやったロイ・ビーンに対する処遇はちょっと甘い気がしないでもなかったり、一度は拒絶されたヒロインともラストで予定調和的に関係修復してたりと思うところが無いわけでもない。またカウボーイVS農民の対立、西部開拓時代の私刑的気質、流れ者と判事の奇妙な交流、更にはユーモアやロマンスなど、テーマ性も枝葉に分かれているので若干ながら散漫ではある。それでもウィリアム・ワイラーの手腕もあってかきっちり纏まっているし、ロイ・ビーンのキャラクターも含めて本作には憎めないものがある。
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