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怪談かさねが渕のhorahukiのレビュー・感想・評価

怪談かさねが渕(1957年製作の映画)
3.8
恨みを忘れて成仏してください…

8月は心霊⑦

三大怪談にもう一本加えるとしたらやっぱり累ヶ淵。累ヶ淵は、三大怪談とは異なり二代に渡る因果応報を描いたもの。父・宗悦とその娘・豊志賀の幽霊が恨みを晴らしに現れるのだけど、ほとんどの幽霊が女でありながら、男の幽霊が出てくるというのも他とは異質。画面の半分を占めるまでに巨大化するオッサンの顔面力のインパクトよ!

累ヶ淵は四谷怪談よりも古く、鶴屋南北が自身で何作か書いたもののひとつが『東海道四谷怪談』の元ネタになったらしい。顔面の半分が爛れたお岩さんのビジュアルも累ヶ淵の豊志賀(累)からの引用で、左側が爛れているのが豊志賀、右側が爛れているのがお岩さんのようです。マジで怪談界の大御所中の大御所。中川信夫監督の『東海道四谷怪談』のお岩さんと本作の豊志賀の両方を若杉嘉津子さんが演じているのもその辺りの事情を踏まえると面白い!

二代に渡る呪いなので前後編のような二部構成になっていて、一部は宗悦のお話。金貸しを生業にしている盲目の宗悦がお殿様のところに借金の取り立てに行ったところ、豪勢な生活してる癖に「ない!」と一蹴されるだけに留まらず、「按摩風情が無礼千万!」と斬り捨てられるという極悪非道な胸糞展開。金借りといて何様やねん。そんで怒った宗悦がお殿様に祟るって話。

二部の方は、20年後。父親とは全く違う超絶善人に成長した殿様の息子・新吉と三味線の先生になった宗悦の娘・豊志賀がお互いの事情を知らずに結婚するんだけど、新吉LOVEなお嬢様・お久が略奪婚を仕掛ける流れで死んでしまった豊志賀が2人に祟る話。マジで救いがないわ…。

一部の方は定番的な怪談で、極悪非道といえど挙動から罪悪感を滲ませるお殿様が、自身の罪悪感に恐怖し破滅していく。その狂い方に簡易版『四谷怪談』のような展開を見せるあたり、元ネタとしての貫禄を感じる。2人を同時に画面内に収めた後に、そのままカメラを移動し殿様の顔だけを捉えることで主観的な内面世界へとスムーズに誘うカメラワークが素晴らしい。

二部の方は「これ何のエロゲ?」って思っちゃうほどのラブコメ展開なのが笑った。良い人過ぎる新吉が奉公先のお嬢様にめちゃくちゃ好かれて結婚を迫られるだけじゃなくて、お嬢様の三味線の先生(豊志賀)、更には近所の若い娘数人にも囲まれてチヤホヤされるというモテモテ具合。しかも優しすぎて(気が弱すぎて?)どこにも転びきらない八方美人なのもまたエロゲっぽい。そこからはクソみたいにドロドロ展開からのこれまた『四谷怪談』的な感じに…。

とはいえ分かりやすい毒薬ではなく、三味線の道具(なんていうかわかんないけど、しゃもじみたいな形した弾く時に使うやつ)が額に当たったことが原因でそこからどんどんと悪化していく。その落下運動が、地元で有名な三味線の師匠という手にした社会的地位からの転落を表すだけでなく、嫉妬という醜い闇が心中に芽生え膨れ上がっていく様を身体への影響としてビジュアル的表現へと昇華した中川演出は凄いとしか言いようがない。やってることはクローネンバーグと近い。

そして新吉と豊志賀を画面の手前と奥に配置した三味線練習シーンの構図にも中川監督のうまさが出てる。画面の中心にいて三味線を弾いているのはお久なのに、手前と奥へと観客の意識を集中させる主従の逆転がヒッチコックみたい。クライマックスの幽霊とのバトルも膨れ上がる罪悪感への恐怖を表現した中川監督らしいシーンになってて大満足。やっぱり中川監督の怪談は面白い!

滅びていくキャラクターたちはみんな何かしらの悪を秘めてたんだけど、宗悦だけは特に何も悪いことしてなかったし、宗悦マジで可哀想…。
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