MOCO

山の郵便配達のMOCOのレビュー・感想・評価

山の郵便配達(1999年製作の映画)
3.5
「トン族のあの娘をどう思う」
「山の娘だった母さんが、山に帰りたくていつも寂しくしていたから結婚はしたくない」

 1980年代初め、湖南省西部の山岳地帯の郵便配達人の父が年齢と共に足を悪くして息子があとを引き継ぐおはなしです。

 1日40km、2泊3日で120km山岳地帯の小さな村を歩いて巡り郵便物の集配を繰り返すのが父の仕事だったのですが、仕事を引き継いだ朝、郵便配達に必ず同行してきた愛犬の「次男坊」が息子と郵便配達に出るのを嫌がったため、急遽父親も一緒に行くことになり、息子と父親と「次男坊」の郵便配達が始まります。

 郵便配達員は公務員というだけで引き継いだ仕事は、(恐らく70kg以上になる)大きなリュックを背負って険しい山道を歩かなければならない過酷な仕事でした。

 父親は息子が幼い頃から仕事で家にいなかったため、息子は何故か父親が怖く思えて、たまに帰ってきた時は父を避けて外で遊ぶくらいでした。そのため今日まで余り馴染むことができず「父さん」と呼んだ事がなかったのです。
 
 息子はこの3日間で父親がこの仕事と村人たちを愛している事を知り、村人達から愛されている事、母と自分がとても愛されていた事を知り、やがて「父さん」という言葉が自然と口からでます。

 父はこの3日間で妻に寂しい思いをさせていた事、息子に誤解されていた事を知り「父さん」と呼ばれ喜びを感じます。

 この仕事の中で知り合った美しい娘を奥さんにした父親は、24歳の息子にトン族の娘を紹介します。そして仲良く話す二人に若かった頃の自分たち夫婦を重ねます。
 息子の事を思い息子にはこの娘が相応しいと、ずっと思い続けていた素敵な父親がそこにいました。

 永遠に続くかのように広がる水田・広大な山々・大きな三連の水車・山間の小さな村・石畳の道・静かに流れる河・宮殿の様な建物・トン族の結婚式・・素朴で美しい景色が印象深い映画です。
 そして息子に紹介したトン族の娘もまた印象深い美しさと明るさを持った女性です。 

 父を背負って川を渡る時、リュックより軽い父に寂しさを感じる息子と、幼い息子をおんぶした思い出からたくましくなった息子の成長に涙する父の姿に目が潤みます。
 
 帰宅して次の朝、郵便配達に出かける息子に、今は信頼関係が出来た「次男坊」が駆け寄り同行していきます。

 「トン族のあの娘をどう思う」と尋ねる父に「山の娘だった母が山に帰りたくていつも寂しくしていたために結婚はしたくない」と話した息子がいつかあの娘に結婚を申し込んで倖せに暮らすんだろうなぁと、勝手に想ってしまいます。

 静かなよい映画なのですが、残念なことに、レンタルビデオ店では見なくなってしまった作品です。
MOCO

MOCO