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カティンの森のRのレビュー・感想・評価

カティンの森(2007年製作の映画)
4.3
カティンの森事件。歴史的な大虐殺事件なのに聞いたことすらなかった。感情を煽る劇的な演出や音楽などの装飾を完全に捨て、真実の重みを純化し、冷たく峻厳に描いた重厚な映画だった。ドイツとソ連の中間に位置するポーランドの地理的宿命、双方から進撃、分割統治され、引き裂かれるという歴史的運命、そのさなかで、ソ連の収容所に連行された夫を待つ妻たち、捕虜となった軍将校の妻たち、兄妹たち、娘たち。彼らの生還を一縷の希望として、恐怖と絶望の淵を生きる女子供。そしてあまりにもはかなく崩れ去るその望み。さらに戦後の新時代の到来と共に、戦勝国であるソ連が行った虐殺は、ドイツの凶行であるとすり替えられる。真実が新政府の政策によって埋伏される。これほどの現実を生きた人々にとっては、すべてがこの映画のように色褪せて見えたことだろう。 ラストシーン、トラックにのって、何も知らずにカティンの森に連れて来られ、トラックから引きずり降ろされ、目の当たりにする地獄。思わずつぶやく福音、祈り…しかし、天の佑助はやって来ない。激しく動揺しぶれるカメラ、深すぎる森の陰翳、しじまに淡々とこだまする無数の銃声、将校たちの最期の悪夢、すべてを覆う土、微風。そして、待ち受ける新時代というもうひとつの地獄。もはや人間を救済できるのは、神でも、仏でも、ない。人間は自らの宿命を、自分で変革していくしかない。そんなことを沈思させられた。劇重。
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