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泳ぐひとのKKMXのネタバレレビュー・内容・結末

泳ぐひと(1968年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 フィルマきってのお薦めマスター・こぅ閣下にオススメいただき鑑賞。異色のアメリカン・ニューシネマ(以下ANC)とのことでしたが、確かに異色!そしてかなり難解。観応えありました。


 アメリカのとある金持ちが住む地域。デカいプールのある邸宅に、海パン一丁の男が現れる。この男、ネッドは中年ながら全体的に成功している風でイケてるとされている人物。邸宅の人たちもネッドを「イケてる」と称える。そしてネッドは突如、「この街には友だちが多い。ボクはこれから車を使わず、知人のプールを泳いで帰ることにしよう」と宣言!そしてネッドは本当に知り合いの家に電撃訪問して(みんな家にプールがある)、プールを泳ぐのだった。そして……というストーリー。
 なんだこれ?となるシュールでヘンテコなストーリーですが、アラン=ロブ・グリエとかみたいな、文脈をあえて排除した現代美術みたいな作品ではなく、れっきとした幻想文学映画です。泳ぐひとであるネッドはメタファーであり、内容も難解ながらもしっかりしています。骨太で古典的な文芸映画だと思います。


 話が進むと、ネッドの正体が判ってきます。当初はパンイチながらもちゃんとした好人物のように見えましたが、プールの件数が3〜4と進むにつれて、プールを持つ住人たちのネッドへの態度があからさまに悪くなる。そして、彼らとの会話で、ネッドが当初のイメージ通りの人間ではないことが判っていくのです。この流れは会話劇なので集中力を必要としますが、だんだんネッドが情け無く惨めになっていくので、映像でもわかりやすく描かれていると思いました。
 そして、ネッドの人間性もだんだん判ってきます。人当たりはいいですが、厚かましく、情が無く、他者への想像力を決定的に欠いており、表面を取り繕うことばかりを考えるクズであることがバレていくのです。

 ネッドの正体は、現実から目を逸らし続けて破滅したバカです。しかも、この男は目を逸らしていることも破滅していることも気づいていません。本作はネッドが現実を突きつけられるプロセスを描いた作品だと言えます。
 ネッドの現実逃避癖は中盤に登場する、水の無いプール(not裕也)での、少年とのやり取りに表れてます。泳げない少年とともに、水の無いプールで泳ぐマネをして、ネッドは少年と「泳げた!」と盛り上がります。しかし、少年は我に返り「でも、プールに水は無い、ごまかしだよね……」と呟くと、なんとネッドは「違う!あると思えばあるんだ」と断言!いや〜戦慄しましたね。ネッドのヤバさが集約されている名場面でした。

 ネッドの破滅は、明らかに自分の在り方に原因があります。しかし、現実を突きつけられても、嘆くことはありますが、後悔する様子は見られない!他者への想像力を持たないだけでなく現実からも目を逸らすように生きていれば、破滅するのは一目瞭然なのに、ネッドは自分に非があるなんてこれっぽっちも思っていない雰囲気でした。「ボクはなんて不運なんだ!」みたいに思ってそう。ホントに惨めでホントにダサい。これほどラストシーンでザマァ😎と感じた作品はないかも。最後の方のネッドはマジで惨めで、めちゃくちゃ笑えました。

 ネッドのイメージは、物質的な成功だけを追いかけている金持ちの象徴なのだと思います。ネッドの妻は資産家で、ネッドは金のために妻と結婚した様子です。自宅にあるプールというのも金持ちのシンボルでしょうし、表層的な成功だけを追っかけるマヌケさを皮肉っているように感じました。ずっとパンイチなのも、絵面的なマヌケさだけでなく、裸の王様性も描いているのだと思います。
 ネッドにとって妻子は、家庭的な紳士像をキープするための素材でしかないです。妻においてはさらに金ヅルという。他者は自分のために存在し、垣間見せる女性への愛情表情は欲望を満たしたいだけの欺瞞でしかない。ネッドは自分だけ、社会的地位だけ、カネだけ。そんな男がどういう末路を辿るかなど、言わずもがなです。
 そんなクズ野郎を『プールを泳いで帰宅する』というシュール極まりない手法で描いたのが本作だと思いました。


 ANCですが、『イージーライダー』『バニシング・ポイント』らに比べると、アウトサイダーの負け犬感やロック/ソウルカルチャーとの融合は見られず、シニカルなメッセージを持った普遍的な作品のように感じました。ヴァルダの『幸福』の、観客にとってのハッピーエンドバージョンと言えそう。鈍感で想像力がなく、無意識的に他者を踏み躙ってきた輩が現実にボコられてスカッとする、そんな印象です。ANC特有のやるせ無さや陶酔感のある自己愛臭はゼロで、なので凡百のANCよりも個人的には好きです。むしろ自己愛臭については、主人公ネッドがあまりにも自己愛野郎なので、ナルシズムをかなり突き放した作風だと思いました。批評的で自己陶酔感じは絶無です。

 他のANCと違い、劇伴が古めかしく、映像もスタイリッシュさは感じられません。本作が異色作と言われるのも宜なるかな。ダサい男をダサい演出で撮っていると言えなくも無いので、そう考えるとスーパーシニカルな一本でしょうが、語り継がれづらいのも同時に解りますねぇ。『バニシング〜』なんかは構図や音楽がかなりカッコ良く、話は凡庸ながらもカルト化するのも、本作と見比べると納得です。やっぱり、映画にはカッコ良さって大事ですね。

 閣下、今回はありがとうございました!ファイヤーアフターファイヤー!🔥🎸
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