シズヲ

スキヤキ・ウエスタン ジャンゴのシズヲのレビュー・感想・評価

2.9
西部劇?アイデアは間違いなくラリっている。題材こそ『用心棒』や『荒野の用心棒』を下敷きにしているけど、「ギャングと化した源氏と平氏が埋蔵金を巡って対立している町に流れのガンマンが現れる」という粗筋からして何かがおかしい。実際色々とおかしい。フロンティアと中世日本が融合したような世界観、マカロニの吹替よろしく当たり前のように英語を話す日本人、何故か出演しているクエンティン・タランティーノ……そんな感じに正気の沙汰ではない要素が詰まっている。

狂った設定を外連味たっぷりにそれっぽく仕上げた美術や映像の雰囲気は何だかんだで好きだし、酒場での白羽取りを始めとする強烈なシーンが見られるのも楽しい。『荒野の用心棒』を思わせる鳥居の絞首死体、『続・荒野の用心棒』っぽい十字架の墓場やガトリングなどマカロニのパロディーにもふふってなる。キャラクターの立ち方も良い感じだ。源氏の義経や平家の清盛など悪役のインパクトはいずれも強いし、二重人格の保安官に伝説の女ガンマンなど脇を固める面々もなかなか面白い。

イカレた発想に対して映画のテンションが追従できていないのは大分つらい。序盤から回想や状況説明が続いて話が一向に進展しないし、時たま吹く瞬間風速こそ強いけど基本は退屈なノリが長々と続く。トンチキな世界観の割にやたらシリアスな撮り方をしているせいでシュールな笑いにもなりきれていない。アホな設定してるのは間違いなく美味しいのに、全体的にかったるくて勢いが足りないんだよな。

伊藤英明演じる主人公がいまいちパッとしないのも致命的で、“名無しの男”ほどのクールな風格も“用心棒”ほどの秀逸なキャラクター性も無い。その上で強かな立ち回りをするわけでも物語に深く関わるわけでも無いので終始地味な印象が強い。悪役・脇役はいいキャラが揃っていただけに尚更そのへんが気になってしまう。あとマカロニのパロディー要素は多々あるけど、別にマカロニっぽくは無いんだよな。なんだか奇妙な映画だ。
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