140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

3.8
”歪さと真実”

少年時代に今作の予告をTのCMで見た。
ゲテモノ映画なんだと軽く流していた。
映画好きとなっていつか見たいと想い
再生したDVDから流れてきたのは
歪だが、真実をついた物語だった。

主人公ヘドウィグは、性転換したロックシンガー。
ある大物ロックシンガーに付きまとうように
ライヴ会場近くのショーケースで歌う。
その姿は衝動を輝かせる不格好。
その起源はどこにあるのか?
それを今と過去の回想をつなぎ浮かび上がらせる。
そしてそれを彩る音楽が常に付きまとって
見る者の心を妙な感触で揺さぶっていく。

冒頭のヘドウィグのライヴシーンは正直ダサいと感じていたが、彼の真実に近づくにつれて、そして彼と映画の中で時間を共有するにつれて愛おしく感じてしまった。愛おしく感じる理由は「時間の共有」があったからだろう。海外ドラマでJ.J.エイブラムスが手掛けた「LOST」というドラマシリーズがある。とはいえ、今作はミステリーではない。「LOST」のように現在のキャラクターに謎を散りばめつつ、過去のエピソードを並走させて、疑似的にそのキャラクターとの共有時間をポイント制のようにプラスして加えていく。過去の回想シーンを見ながら、現在の彼が何故そうなったのかをカウンセリング療法のように巡っていくうちに、彼の内なるモノの全貌が見えていく仕組みである。

手書きPVとともに歌われる「The Origin Of Love」の初手でゲテモノ的なイメージから連なってそして愛に関する切ない歌に仕上がっていくシーンは圧巻で、この曲がこれから現在と過去で織りなされるヘドウィグの物語であることを象徴している。過去と現在が何度も交差し、交差するたびに切なさを増す今作の魅力と、愛おしさを増すヘドウィグ。タイトルの「ヘドウィグ・アンド・”アングリーインチ”」のインチが示す事柄は滑稽だが、そこに乗せる怒りの感情の伝導率は非常に高い状態で私の脳内に届いた。

クライマックスを迎え、再び今作を彩った楽曲たちが、重みをもって奏でられるとき、そして相応の怒りの中でかき鳴らされるとき、そして切なく雨の中に消えていくとき、映画の持つ魔法性に沈んでいくようにエンドロールを見送っていく私がそこにいた。