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陸軍中野学校のクレセントのレビュー・感想・評価

陸軍中野学校(1966年製作の映画)
4.2
昔、ニヒル(虚無)と言う言葉が流行った。半世紀も前の話だ。その頃大映映画に市川雷蔵という俳優がいた。彼は眠狂四郎などニヒルな二枚目役で人気を博した。日本人はどういうわけかニヒルな二枚目が好きで、その後TVになってからは、田村正和が名をあげ、ほかでも平幹二朗や私の好きな池部良などもニヒル役でうけた。脱線したが監督の増村保造はこの作品は市川雷蔵がうってつけだと思ったのだろう。甘く見ていた私はついつい見逃していた。むしろちょうどその頃、勝新太郎の二等兵ものが流行っていたし、戦争ものが多くあって、どれもこれももう一つだったからなおさらであった。さてこの作品はそういうわけでニヒル仕立てになっており、なかなか面白かったが、諜報モノの映画といえば裏切りのサーカスを代表とする英国のJ.ル・カレに勝るものはなく、それに比べるとまだまだ甘い。それでも婚約者を殺める役どころはニヒルそのもので、欧米作品でもなかなか無い設定となった。史実ではこの部隊と言うか機関は学校と呼ばれ、エリートの青年将校を選りすぐりそれも陸士上がりではなく、民間のエリート大学卒を選んだところがミソである。この映画の中でも陸士上がりで幕僚となった将校は視野が狭く、暗号解読などの作業に不向きだなどと、当時の参謀本部を揶揄するところなどは挑発的であり、その後彼ら卒業生たちは世界に飛び出して諜報活動をしたのだろう。その後日本は開戦となりそして敗戦を迎えるが、それも陸士上がりによる参謀本部ゆえのこととも読み取れるこの作品は、当時の社長永田雅一率いる大映映画の野心的な作品だったといえる。
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