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MINAMATAーミナマターのクレセントのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.8
ドラマが終わり、テロップが流れた。「この水銀被害は克服したという2013年の首相発言は、今もなお苦しむ数万人もの被害者を否定するものである。」これだと思った。J.デップが嚙みついたのは。彼は人種や公害問題に敏感な俳優だ。そこで彼は自らこのドラマの製作を買って出た。それは水俣被害は未だに終結しておらず、訴訟も継続しており、また似たような問題が世界中に蔓延していることから使命感をもったのだろう。ところが、完成すると肝心の配給会社であるMGMが下りてしまった。彼の個人的なトラブルを理由にしてである。だから米国ではこのドラマは見れない。このように昔から事実に基づいたドラマを製作すると、色々とトラブルが発生してしまいがちである。このMINAMATAの場合、地元や加害者たちはもう放っておいて欲しいといい、被害者たちもドラマではなく事実だけを伝えてほしいと言う。そこで問題になるのが脚本である。このドラマの幕切れは、被害者たちの勝訴をもってハッピーエンドとしたが、もう一つはっきりしないのである。それはこのドラマの主役が写真家であり、彼が見届けたMINAMATAは確かにLIFE誌を通じて世界に衝撃を与えたのだが、だからと言ってこの作品は水俣被害を追求して告発するものではない。ただ、最後にテロップで「まだ終わったわけではない」としただけである。例えば似たような訴訟を扱ったマイケル・マンの「インサイダー」では、被害者や加害者はもちろん、立場の違った複雑な関係を描いたドラマ仕立てにした。だからハッピーエンドにしなかった。このように事実に基づいた事故や事件をドラマ化した脚本は「何をテーマにするのか」を明確にして、被害者はともかく、加害者やそれを取り巻く関係機関やマスコミそして国民感情をどのように描写しようとするのかが問われるのである。悲劇を扱う場合、それは決して主役の写真家と連れ添う女性の絆を挿入にしてはいけなかったのではないかと思う。
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