クレセント

野良犬のクレセントのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
4.2
戦後まもなくに撮った黒澤明による初の犯罪サスペンス作品。最後まで犯人がわからない面白さがある。スタッフやキャストはいわゆる黒沢組と言って、脚本の菊島隆三、主演の三船敏郎は無論、志村喬、東野栄次郎や千秋実、菅井一郎などのベテランに淡路恵子や木村功などの若手が登用された。のちにこの作品が同じく脚本菊島による天国と地獄のモチーフになったのは有名な話で、時代は変われど場末の歓楽街の生々しく騒々しい映像は黒澤作品最大のモチーフだと思う。この作品では当時の刑事の仕事ぶりや日常生活がリアルに描かれていて、その後の刑事もののお手本になった作品。また黒澤は野球が大好きで、後楽園球場の巨人―南海戦さなかに川上や千葉、大下らのプレーが展開する中、三船らが犯人を追うロケを敢行したのは中々見ごたえがある。一方天国と地獄の作品もそうだったが、犯人が最後にでてくる仕掛けで、それも天国の方は山崎努、こちらは木村功と双方ともニヒルなキャラクターを登用した。彼らはそのキャラゆえにその後長い間映画やTV界で大いに活躍することになる。黒澤が秀でている一面に人物描写が豊かで、東野栄次郎がわざとやかましく手桶を叩いたり、志村喬が緊迫する会話をホテルロビーの電話ボックスで描写しながら、手前では支配人の菅井一郎に陰で受付の女の子とイチャイチャさせるなど、彼の作品の奥深さがまさに世界のクロサワの所以なのである。この場面はそれを感づいた犯人の足先だけを移し、それを知らぬ志村に危機が迫る。観客は犯人が銃を持っていることがわかるのでドキドキ・ニヤニヤの極限となるのである。もう一度じっくり見たい作品である。
クレセント

クレセント