茜

羊たちの沈黙の茜のレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
5.0
10代の頃に初めて観た時から、もう幾度となく観返しているとても思い入れの強い作品で、
中学生か高校生の時か忘れてしまったけれど、初めて自分の意思でレンタルして観た映画だったと思う。
それもあってか、自分が死んだときはお墓にこの映画のDVDを入れて欲しいと言いたいくらい愛着がある。

もう何度も観ているのに、クラリスが初めてレクター博士と対面する時や、レクター博士が檻から脱走する時、
そしてラストの緊迫した15分間は、こちらまで息が詰まりそうになるほど毎回緊張してしまう。
クラリスに向けられる男性達の好奇の目や、どこか見下げた視線が、大人になってから観ると非常に居心地が悪く、
だからこそ日々厳しい訓練を積んだクラリスが、ラストに自分の手で犯人を仕留めるというシーンには何とも言えない感慨深さがある。

思えばこの映画の中でレクター博士の出演シーンは実際それほど多くはないのに、
それでも事件の登場人物の誰よりも強烈な印象を与えるのは、やはり彼の持つ上品で知的な振る舞いのせいなのか。
確かに彼は狂っているし異常者ではあるけれど、あからさまで下品な狂人ではなく、彼の話す言葉には一つ一つに人を惑わす知性がある。
そして微妙な表現ではあるけれど、私は彼の犯す殺人にもどこかいつも気品のようなものを感じていて、
あの警官の死体を蛾に見立てて飾るという強烈なシーンを初めて観た時に感じた衝撃は、
斬新なアートを観た時のような圧倒感で今だに頭から離れないし、今まで観た映画の中で一番好きなシーンと言っても過言ではない。
レクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスも、まさにこの人以外に適役はいないだろうという程に素晴らしく、
私の中ではアンソニー・ホプキンス以外のレクター博士は絶対にありえないと確信しているので、原作小説を読んでも彼の顔が浮かぶし、ドラマ版など端から観る気にもならない。

ストーリー、登場人物、役者、音楽、演出、長すぎず短すぎない絶妙な尺、
私の中では全て非の打ちどころがない、一生ものの素晴らしい映画です。
茜