茜

悦楽共犯者の茜のレビュー・感想・評価

悦楽共犯者(1996年製作の映画)
3.8
「これは変態の話ではありません」
パッケージの裏側に赤い文字で大きくこう書いてあるんだけど、登場するのはどう考えても癖の強い変態じみた人ばかり。
でもこれは普通に働き普通に暮らす何処にでもいる人々、自分が日々の生活で何気なくすれ違っているような身近な人々の話。
そう考えるとそもそも普通って何?変態って何?これを観ている自分は?と終わらない思考が頭をぐるぐるしてしまう。
映像的には笑っちゃうくらい可笑しいんだけど、不思議と深い思考に迷い込んでしまう色んな意味で「面白い」映画です。

本作には台詞は一切出て来ないし、音楽すらも無いに等しい。
80分間ずっと6人の登場人物たちの一風変わったクセのある性癖を見せつけられる。
郵便配達員の女は自分の唾をつけた指でパンの柔らかい部分を小さく丸め、それを鼻と耳にたっぷりと詰め込み快感を得る。
その配達員から手紙を受け取った男は、お手製のニワトリ頭とコウモリ羽を身に纏いニワトリバットマンに変身する。
また別の男はお手製のハンドマシーンに身体を弄られながらテレビ画面に大好きな女子アナの顔をアップで映して快感を得る。
そのオナネタになってる女子アナはニュースを読み上げながら足の指を大きな鯉に吸わせて快感を得る。
出て来る人物が次々とやらかす変態行為に笑っちゃう一方で、それぞれの人達が輪のように一つに繋がっていくストーリーに唸らされる。

紛れもなく一般受けしない映画だけど、例えば本作を「変だ」って馬鹿にする人間が居たとして、その人は本当にこの映画に出て来る人達を馬鹿に出来るのか。
誰にだって一つや二つ、他人には理解できない拘りや悦びがあるんじゃないか。
シュヴァンクマイエルは人間のそんな部分を肯定し、全力でアートに昇華する。
可笑しくて笑っちゃうような映画だけど、その根底にはシュヴァンクマイエルの芸術に対するパワフルなエネルギーがある。
快楽を求める人間の姿ってこんなにも創造的でエネルギッシュなんだなぁと思わされる。
ひたすらに己の快楽に耽る登場人物を観ていると、変態でもいいじゃん!変態って楽しい!変態サイコー!みたいなポジティブな意識が芽生えてくるから何とも愉快。

「この作品で時代を変えようと思わないなら映像作家なんてやらない方がいい」
こう言い切る人間の作る映画はやっぱり只者じゃないと思い知らされる、流石です。
茜