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コンタクトのyoukiのレビュー・感想・評価

コンタクト(1997年製作の映画)
2.5
「マトリックスシリーズ」が分かりやすい例だがsfを突き詰めていくと、物理や科学の範疇を遥かに超える壮大なトピックにたどり着く。この現象が個人的にとても好き。「時空」「時間」「宇宙」などの普遍的概念は言葉に説明するのは難しく、数字を多用する理系世界でしか気持ちよく表現できないからだろう。自分が学生だった頃、化学・生物よりも物理(特に理論)の勉強が好きだったのは、これが理由なのかもしれない。

他のレビューでは、「この映画は他のsf映画よりも奥が深い」「宗教&哲学っぽい」といった感想がたくさん書かれている。しかし、私からすれば今作は、基本的には単なるsf映画。しかし、最後15分くらいでこの映画の本当に伝えたいメッセージが分かりやすく表示される。そのメッセージが、宗教や哲学の存在意義を前向きに捉えるような内容ってだけで、決して今作は難解な哲学映画というわけではない。
この映画はこれでもかというくらい主人公の顔を映す。宇宙人との遭遇は世界的なイベントなので、もっと全世界で起こっていることを鳥の眼から映せばいいのにと、映画を見ていて序盤は思った。しかし、映画が終わるにつれてその違和感は無くなっていく。
今作は宇宙人襲来時のパニックを描きたいわけではない。この映画は『地球と地球外生命体の出会い』ではなく、単に『スピリチュアルな体験を通じて主人公の人生哲学がどう変化したか』を描いているだけで、そこが今作のメッセージにつながる。

私は、この映画の持つメッセージとその表現の仕方が素晴らしいと思った。
主人公は、初めは実証主義と証拠主義を絶対的な正義と思っている。宗教はただの「思想・妄想ごっこ」で興味がなく、科学が正解を教えてくれる。こういう考えから、ほぼ真逆の価値観を持っている作家の彼氏と一度は仲違いになる。
そして自分が宇宙飛行士になり、人類史上初めてたった一人で地球外生命体とのコンタクトをとる。その時の体験があまりにも不思議なもので、確たる証拠や第三者の証言も無く、地球の世界に戻った後はみんなへの説明に苦労する。
彼女はこれらを通じて、『証拠や真実相当性ある証言は不可能でも、人間の中に潜むあるいは人間だけが感じられる事物というのは、間違いなく存在していて、その存在を他者と理解し合って・追求するということは極めて人間的で価値あることだ。決して実利主義と科学主義だけが正義ということはない』ということを学んだのではないか。
そう考えると最後の岩肌のシーン、彼女が一人で満足そうな表情をしていた訳がなんとなく分かる。

この主人公の価値観の変化を促したのは言うまでもなく、宇宙人とのコンタクトだが、その映像描写がとても良かったと思う。宇宙船の壁が半透明になり、ワームホールに入っていき、瞳の奥にカメラがズームしていきそのまま浜辺の場面に転換して…
目の肥えた映画ファンからすれば、ありきたりでb級感もあるが私はこの発想は良かったと思う。未知との遭遇や、現実世界から夢世界への転換をvisualizeするのは至難の業だから、よく描けたなと感心する。
これがあったから、先に記したこの作品の持つメッセージがこんなに説得力を持つのだろう。

個人的には、この映画にはリアルさが圧倒的に足りなかった。
今作は作品自体は大衆sfっぽい作りになっているが、政治の話もあり人が持つ深層心理等にもメスをいれているので、「メッセージ」や「ガタカ」のような多少渋く退屈だが、リアルさを感じられるような作品に仕上げても良かったと思う。
具体的に一番目障りに思ってしまったのが、主人公の役。演技が悪いとは思わなかったが、全く本物の天文学者には見えなかった。これは半分以上自分の持つ偏見だが、アインシュタインといいBTTFのドク博士など、研究に忙しく自分の研究に固執するような研究者は、身嗜みには無頓着のような気がする。落合陽一も確か風呂に年数回しか入っていないのだとか。
しかし、今作の主人公の身嗜みはというといつも百点満点。彼女はかなり研究好きで研究所に篭り続けるタイプの学者にもはじめは見えた。それなのにカメラに映る時は常にメイク完璧からの、服装のセンスも高い。汗や目元のクマなどは全く映らない。今作ではほぼ全てのカットで主人公が画面に映ってくるので、これは自分の偏見とはあまりにもかけ離れていて、途中から鼻にもついた。
演者を綺麗にクールに映そうと言う試みが映像に現れすぎると、少しでもリアルさの追求が求められる映画ならそれは絶対に違和感になる。

そして、cgは流石に酷い。本当にb級映画に近いくらいの質だった。
更に主人公が搭乗したシャトルも作り物感max。ファンタジー世界のアイテムでしかない。sf映画の中でも、「未来世紀ブラジル」「惑星ソラリス」のようなそれに近い。主人公を美人に撮りたいだけなのかもしれないが、宇宙服はとても薄くヘルメットは被らない。
宇宙船発射前に管制室に天文学者(主人公)や作家(主人公の彼氏)がのうのうと入り、口元にマイクをつけて他の管制官同様に現場の人に指示を出せるのは明らかにおかしい。主要な登場人物を、なんでも出来るヒーローに仕立て上げたいのだろうけど、これらも気になった点。
この辺りはもう少し忠実に再現するべきだったのでは。まあ、『リアル重視でない大衆映画✖️奥深い壮大なsf物語』を実現させたかったのかもしれないが…

要するに、最後の映画の訴えるメッセージ性やクライマックス部分の表現は良いが、それを際立たせるための映画の雰囲気作りが序盤からは出来ていなかった。
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