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さらば、わが愛 覇王別姫のyoukiのレビュー・感想・評価

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
3.7
すごく画力があった。見応えは抜群。主人公とそれとともに歩んできた親友、そしてその奥さんの演技は申し分ないものだった。
中国映画にも関わらず、旧日本兵だけでなくそれ以降の国民党、さらにその後に現れた毛沢東時の政治体制まで全てを敵に回しているかの如く、表現の自由を行使して作られた作品。
一番素晴らしかったのはメイクアップと衣装。主人公の京劇時のメイクは本当に美しかった。主人公達が魅了された京劇のかっこよさも、映画を通してかなり伝わった。だからこそ、もっと京劇という舞台の映像を長く観たかった。

この映画では、カメラは常に特定の狭い視野を映している。鳥の目からのショットなどはあまり用いられていない。主人公達が外に出て、街に人がごった返しているシーンなどは、一群衆が見ている映像のようだった。とにかく俯瞰ショットが少ない。そして、被写体はずっと人。まるで小さい舞台と数個のスポットライトのもとで行われる舞台を、スクリーンで観ている感じ。これは今作のコンセプトにも通づる点。しかしたまに気疲れをしてしまった。撮影のために作製されたセットが小さかったのだろうか?

170分という長尺の今作だが、通常の長尺映画以上にシーンがとても多い。しかも、突拍子なくシーンが切り替わることも多く感じた。良くいえば、全く間伸びしない。悪く言うとボリューミーすぎる。
またそれらの今作の特徴から、脚本的にも無理矢理に見える場面切り替えが多く感じた。まるで240分ある映画を一気に170分のダイジェスト版にまとめたようにも思った。そして案外映画のラストも急に終わらせた感があった。これらも気疲れした要因の一つ。人間ドラマにしっかりと目を向けられなかった要因の一つ。
やはり日中戦争から4人組失脚までの中国の歴史と重厚なヒューマンドラマを170分に収めようとすれば、だいぶ大胆に編集をしなければいけないのだろう。
これらの大ボリュームな脚本&大胆な編集のせいで、画力が強くて演技も魅力的なのにすぐに次のシーンに行くので、何だかんだ記憶には残りにくい。でもその分見どころ満載ではあるので飽きはこない。

そして、主人公とその親友との恋愛を描いている人間ドラマの部分について。これは完全に自分の問題であるが、あまりBLを見るのに慣れていない自分なので、しっかりと主人公に感情移入できたかと問われれば怪しい。演技は大人達は素晴らしかった。それに比べると、子役は一部微妙な子供達はいた。しかし、子供なので仕方あるまい。

ツッコミどころについては、遊郭でのシーン。女性が2階?3階?から飛び降りそれを下にいる男がキャッチする場面があるが、これは現実的に考えてもあり得ない。重要な場面でもあるので、もう少し別の案があったのでは?

照明はかなり逆光の光を多用していた。部屋の中は暗いが、外から強い日光が部屋に向かって差していた。こういった映像は私の好み。自分は標準画質で視聴したが、4Kで観ればさらに映像は映えるのかもしれない。

序盤の劇団キッズをスパルタに師匠が育てる過程を描く部分は、流石に見ていて辛かった。「もう少し観ている側には心にゆとりを与えてもいいのでは」と感じたが、ここは非常にリアルさを映画を観ていて感じた。テレビでたまに観る中国の仰天達人らは、全て似たような超スパルタ教育の道を小さい頃に歩まされたのではないだろうか?中国恐るべし。
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