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つぐないのyoukiのレビュー・感想・評価

つぐない(2007年製作の映画)
3.5
セット.・衣装デザインが完璧。アメリカにはない、いい感じに古びている優美な英国スタイルを堪能することができた。
それ以上に、照明が本当に良かった。戦場(ダンケルクの海岸)のシーンは青暗く、肌寒そうな映像。そしてラブシーンは、光は暖色を使った演出で特別感を作り出した。
それに演技も素晴らしい。俳優の顔を、瞳の色形までしっかり見られるくらいの超どアップで撮っているときが多かったが、その時が一番の映画の見どころだった。本当に全員の演技が輝いていた。

普通のラブロマンス映画とは違い、時系列に仕込みが入っている。「同じ時間の出来事を視点を変えてもう一度」が多い。初めはその編集に混乱してしまったが、すぐになれる。この編集方法から分かるように、この映画は「謎提示→種明かし」のスタイルが初めっから見受けられる。サスペンス映画では全くないが、すごく視聴者をミスリードさせようと製作サイドもがんばっている。その点この映画は、結構個性的。

芸術的な描写も複数見受けられた。林の中で男が発見した子供たちの死体。警察に連行されるときの、それを屋敷の前で悲しい目で見送る姉とその家族たち(このシーンは逆再生だった)。地下鉄とともに海に沈む姉。
ワンカット長回しでたくさんのエキストラ(兵士役)を交えてのダンケルクの浜辺のシーン。あれはリアルで記憶にしばらく残るだろう。

改めて映画の本質について個人的見解を記述する。
私はこの映画はラブロマンス映画ではないと思う。無理やりジャンル分けしようとしても、今作はかなり難しい。

この映画の本質的なあらすじは、取り返しのつかない罪をしてしまい罪悪感を感じる者が自白によって、少しでも救われようとする話だ。なので主人公は金髪の妹であるはず。しかし、今作の冒頭は意外と姉の視点も多く。中盤からは下級の男の視点が多くなる。後半でようやく妹のターン。最後の最後で大きく場面展開し話のオチがはじまる。

もし私が上記に記した本質的なあらすじが正しいのであれば、もう少し妹の心情を探るシーンが欲しかった。「どれだけ男を好きなっていたか」「どれほどの罪悪感に苦しんでいるか」が伝わらなかった。そして、「好きな男に自分のことが好きかを試す川沿いでの回想も後半盛り込まれていたが、そもそも何でその男が好きなのか、そのきっかけが知りたかった。
これは姉と男との相思相愛の関係にも同じことを感じた。彼らはどうして相思相愛の仲にまで成長したのか、その経緯が大事。一応序盤に噴水の周りで仲違いして、関係が一段階前に進むエピソードが盛り込まれているが、2人だけのエピソードはそれだけではないはず。
すべての恋愛映画・小説に言えることは、相思相愛になるまでに至った経緯があって、「なぜ彼らは互いのことを好きでいるのか」の点を明確にすることが大事。キャラクターに共感できなければ、良い恋愛ストーリーとは言えない。

この部分をクリアできればそれが、「どれほどの罪悪感に苦しんでいるか」が想像できる。今作はどちらかといえば「どれだけ好きか」よりもこちらの「どれだけ罪悪感が苦しいか」方が大切だ。
しかし、看護師として働く妹を映す病院での話は、あまりそこにフォーカスしてはいないかった。ここでは怪我した兵士がどんどん病院に運ばれていきグロテスクな表現も多く、「戦争がいかに酷いか」を伝えることを主としているようにみえた。それは戦争映画を見ているようだった。この点は、映画の本筋からは少し離れている。
院内では、本名ではなく与えられた名前を使うように上から指摘され、それにもかかわらず妹は本名を使ってしまい、上から叱られる流れも二度あった。しかしここに関しては、映画としてどういう意図があったのかすらわからなかった。

また、最後の妹がご高齢になった現在の場面、私個人としては妹の考えにはあまり賛同できなかった。
妹は「もうすでに2人(姉・初恋の下級の男)は死んでしまい、一生会わずに世を去った。が、2人が再会し同居するという架空の話も本に含めることで、彼らを本の中でだけでも幸せにさせたてあげたかった」と発言していた。言っている意味は分かるが、別に事実と自白と謝罪だけで十分のように私は思う。

そして、彼らの三角関係は本当に異常。妹は、姉の理想の相手に恋している。そして彼らは、階級の違う男を愛している。しかし、これらの奇妙な関係を最大限駆使して、面白い展開を考えられてはいなかった。
「別に姉妹関係ではなく親友関係でもいいのでは?」と思った。階級差恋愛の悲劇は納得のいくものだった。男は下級家庭の男だったからこそ、大した取り調べや騒ぎもなく呆気なく刑務所に送られた。しかし、もう少しその階級社会の悲劇を取り上げることは出来たのでは?

映画の一つ一つのパーツは最高級な出来であるが、脚本の部分ではあまりこの映画を推すことは出来なかった。
あと、音楽はすごく良かった。タイプライターの音フェチにはたまらないタイプ音がよく作中流れる。ただ、少しくどいとも感じた。
演技が光る緊張感ある場面も多いので、黒澤明やスコセッシで観られる「沈黙の瞬間」ももっとあって良かったと思う。
ドビュッシーの「月の光」が数秒流れた。ムード的には選曲は間違ってはいないが、悪い意味で何か目立った気がする。
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