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ツリー・オブ・ライフのyoukiのレビュー・感想・評価

ツリー・オブ・ライフ(2011年製作の映画)
3.6
「2001年宇宙の旅」や「複製された男」のような、難解&最後は感性で楽しめ系映画が大好きな自分。今作も間違いなくそのジャンルに当てはまる作品で、見終わった後の満足度も低くはなかった。しかし、どこか傑作にはなれなっかった感も強い。

この体の映画の感想が、一番言語化しにくい。他のユーザーのレビューを閲覧しても、やはり抽象的な感想にとどまってしまっているレビューも多い。
もはやこのような芸術性の高い映画を真剣に考察すること自体が不要と考える人もいるだろう。しかし私の性格上、それにチャレンジしてみたい。一体他の魅力的な難解映画と比べ何が劣っていたのか。何がこの映画を難解にしているのか。下に述べる。

まず今作は、「イレイザー・ヘッド」のような本当の本当に根元から理解不能な映画というわけではなかった。しっかりとストーリーは用意されている。「厳格で強さの必要性を訴える父と、優しく自由の必要性を訴える母の間に生まれた子供達が、両者の教育方針の違いに翻弄されていき、父と不仲になり不良の道に入って行く。そして、最後父の元へ帰る」といった話が根幹にある。ここだけ観れば、ただのヒューマンドラマ。もしdvdレンタル屋に行けばヒューマン・感動系映画の棚に今作のdvdは置かれているだろう。
ただ家族の絆を描いた「コーダ あいのうた」や「しあわせの隠れ場所」と比べても、今作は感動があまりに弱い。それは後に記述する、本ストーリーを一見無視したように見えるパートが多く、単純に家族を描く尺が短いというのが一つの理由。そして、これも下で述べるが、カメラワークが絶妙にうざったい。個性を生み出すことには成功しているが、その個性のせいで集中力が削がれた。なので意外と人間ドラマの部分は期待したほどではなかった。

そしてこの映画は、家族のストーリーとともに宗教(キリスト)の要素が絡められている。
ここで考えたいのは、具体的に「宗教の要素」とは具体的に一体何か。確かに家族はよく教会に足を運び、厳格な父はオルガンを弾いている。また、讃美歌が作中bgmとしてよく流れる。しかし、宗教の専門家ではない私にとっては宗教的な表現を受け取れるのはここまで。セリフでも聖書的な表現が用いられていたが、それらの意味もしっかりとはわからなかった。
視聴後、簡単に今作の解説を読み、多少理解の幅は広がった。とともに自分がクリスチャンの宗教観と知識をしっかり持ち合わせていないということを再確認した。
この映画を完璧に理解するには宗教の知識や信者の持つ心理も必要になってくるのだろう。ただ、これは「完璧に」理解するための条件で、物語を追うことだけなら素人にも当然できる。ロシア文学のような、「人物が多すぎて!」「話が複雑で!」といった苦痛は特にない。

そしてそれ以上に今作が難しいと呼ばれる原因は、序盤の宇宙や自然世界の映像が連続する展開と、時々映る大人になった主人公が砂漠や塩湖の上をのらりくらり彷徨うシーン。最後はそこに、子供の頃の自分や父親も集まる。
ロケーション的には絶景で、観ていて心地よいものだが、一体これらとストーリーがどういうふうにリンクしているのかさっぱり分からなかった。
ここでは、「さあ諸君、感じろ!」と言われたかの如く、観客個人個人の感性の豊かさが試される。寝る人は寝るだろう。逆にこれらのシーンを今作一番の見どころと言う人もいる。当然どちらの態度も正しく、間違いはない。自分は後者の立場で、壮大かつ長めの難解ゾーンを眠気一切感じず楽しめた。それは、「ただ映像が見ていて美しいから」といった表面的な理由もある。それに追加で言うと、私は映画を観ていてこういう謎の展開になった時に、「ストーリーとどう繋がるんだろう?」や「どう言う意味が隠されているんだろう?」「このあとはどういう映像が流れるのだろう?」という好奇心が自分頭の中で芽生える。だから自分は感性に訴えかけるような難解SF物が好きなのだろう。
見ているときはワクワクするが、視聴後に改めて思ったのは、ワンカットごとの画自体はそこまで独自性のあるものではないということ。「2001年宇宙の旅」の最後のスターゲート・シークエンスの部分は、全映画の中でも個人的にはトップレベルで感動した映像だった。あんな変な映像はあの映画の中でしか観ることはできないだろう。
しかし今作のそのシークエンスにあたるであろう宇宙に浮かぶ惑星や恐竜や砂漠のシーンは、どれもディスカバリーチャンネルで観れるような映像ばかり。興味深いシークエンスでインパクトは大だったが、一つ一つが個性に欠けていた気がする。


また、映画作りの点でとても気になったのが、カメラワーク。この点が今作の一番の魅力と捉えている人も多いみたいだが、自分はその逆に感じてしまった。確かに、今作のローアングル撮影や必要以上の手ブレ等は、間違いなく映画の個性に磨きをかけている。しかし、普通に観づらいだけだった。シン・ゴジラの実相寺アングルで作られるようなクールさもなく、「ブレアウィッチプロジェクト」で観られるpov手法から醸し出される、リアルな怖さなども今作には特になかった。カメラワークの効果だけで、意図的に何かしらの感情を観客に植え付けるのは、やはり難しいみたいだ。

以上踏まえると、映画の根幹にある、家族のストーリーはあまり本腰を入れられておらず、美しいがどういう関連があるのかわからない謎の映像も多く、映画の本当の深い部分は考察不能なくらい素人には難しい。これが、難解映画好きでもあまり評価を高くできない理由だろう。

そして、決定的な問題点は、それらのせいでいざ解説を見て納得する部分が増えたとしても、「再チャレンジだ!もう一回観よう!」という、モチベーションが湧き起こらない点。これは考察が必要な映画にとっては致命的。
とは言いつつ、私はこの映画はおそらくもう一度は生きているうちに見ると思う。興味そそられる映画だったのは事実で、このタイプの映画は間違いなく二度目の方が楽しめるから。なんだかんだ記憶にはしばらく残る映画だと思うので、だいぶ記憶が無くなってしまったときくらいに見直したい。

私が好きだったところを一つ挙げるとすると、大人になって主人公が映る場面。成功して主人公は都会の超高層ビルで働いているが、その摩天楼の映し方は本当に美しかった。ここのカメラワークだけは大好きになれた。
高層ビルの中は田舎と違いとても現代的な様式で、どこか温もりなく殺伐としている。それらデザインが好きだった。

あと言い忘れたが、役者の演技は子役含め全員100点。
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