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LION ライオン 25年目のただいまのyoukiのレビュー・感想・評価

4.0
人は何を見れば感動するか、泣くかを完璧に理解した人達によって製作されたかのような作品。泣きどころが何度もあった。

複数のレビュアーがすでに言っているが、オーストラリアに移住してすぐのお風呂のシーンはすごく好き。リラックスした顔でお風呂に浸かる子供は可愛いし、言葉通じないけど「大きくなったらあなたのお話聞かせてね」と1人呟く母自身も、純粋な子供思いの親に見えてこちらもまた愛らしい。
それより前の空港?のシーン。初めて親(里親)と子(養子)が出会う時、親はコアラのかわいいぬいぐるみを贈る。ここもすごく和む場面。良い親だということが一発でわかる。

また、タイトルの意味を最後の最後でテキストを通じて提示するのは珍しい手法。そこで鳥肌が立った人は、私だけではないはず。まあ、物語的には不要なテクニックかもしれないが、、、

劣悪な孤児院にたどり着くまでの序盤の展開も、結構面白い運び方をしていた。映像は視野が狭く常に迷子になった子供だけを映し、全然その周りの状況がわからない。子供が電車に乗りどれくらいの時間が経ったか、子供がどこを歩いているのかすら観ている側はわからない。しかし、それは当然まだ6、7歳?の主人公も同じ。映画を観ている人間と映画の中の主人公とで同じ感覚を共有している気分だ。
また、展開自体がものすごくスピーディー。主人公にはすごい勢いで至難が降りかかる。もはやゆっくりと泣いて悲しんでいる場合ではない。一方の映画を観ている側も、大人に誘拐されるストリートチルドレンたちを観ていちいち「かわいそう」「この大人たちの目的は?」と考えている暇などない。頭が混乱しながらも、目の前の混沌とした世界を駆け抜けなければいけないこういった意識も主人公と観る側とで何か繋がっている気がする。
そしてがむしゃらに主人公が頑張っているうちに、ゴール(彼の家族のいる場所)からむしろ遠ざかっている。

主人公の「実母を探そうとすれば、今の母が悲しむ」的な発言はとてもわかる。心の中に葛藤があることはわかった。そして「母に迷惑をかける弟が許せない」的な発言からも家族思いな主人公の心情がわかった。

主人公がようやく見つけた優しそうな女の人。その人の家に行くとご飯を食べさせてもらえ、次の日には人当たりの良さそうな別のおじさんと家で出会う。
ただ、彼らの何かがおかしい。子供なので彼らの話している内容はちんぷんかんぷんだが、明らかに何か怪しい(おそらく彼らは人身売買業者の手先)。そして、一瞬の隙をみて逃げる。子供に「野生の勘」が働いた瞬間。その時の子役の演技は、超絶妙で説得力があった。
この他にも、今作は演技が全員輝いていた。感動映画には最高の演技は必須のようである。そして、演技のできる本当の子役を抜擢出来たのも良い。

少し気になった点を挙げる。そもそもこの映画の後半は、「実家族に会うために試行錯誤する主人公」と「オーストラリアで家族&恋人との関係に苦悩する主人公たち」の二つを描いている。前者は良いが後者のドラマが総じて荒い。20年ぶりの家族の再会を観たい者からすれば、後者は少しメインストーリーから脱線気味に見える。

主人公の血は繋がっていない薬をやっている弟がいるが、結局最後の最後まで彼の問題は解決されずに映画は終わってしまった。私としては、最高のハッピーエンドにするなら、主人公は実母と再会しそれと一緒に、オーストラリアの家族の問題も解決して終わってくれるともっと満足のいく映画になっていたと思う。
しかし、おそらくこの映画は完全実話ベースなので、良くも悪くも嘘はつきたくなかったのだろう。その気持ちも私は理解する。

主人公が大学生になった20年後のオーストラリアでの部分。個人的には彼女が映っているところは、全体的に不要に見えた。別に彼女と一緒に故郷をネットで探しているわけではない。また主人公が故郷探しに没頭しすぎるせいで、彼女との関係が悪くなるが、それがなぜか自分はピンとわからなかった。そして、ショッピングモールのエスカレータでたまたま再開する。それからすぐに仲直りするが、やはり2人の関係がどう言う理由で悪化改善されるのかわからなかった。別に彼女のキャラクターはこの物語のキーパーソンのようには見えなかった。

あと、これは少し仕方のないことだが、主人公はGoogle earthを使い1人で黙々と故郷を探し、それを見つける。しかし、この点映画の脚本(主人公は壁に貼っていた資料を剥がし横になり、あたかも「もう諦めました」みたいな雰囲気を出す)的にも「努力の果てにようやっと場所が判明した!」よりは「毎日ネットサーフインしていたら、たまたま故郷っぽい場所を発見したw」というノリに見えてしまった。
そして、その彼が故郷を探している最中の映像で何度も、子供時代の思い出のフラッシュバックのカットが間に挟まれていた。初めは良かったが、後半それが蛇足と思った。短い回想を何回も挿入されるとそれがストレスになってしまう。

最後の感動の再会の場面。とても感動的なところだが、ここは私が期待しすぎたのかもしれない。何十年ぶりの再会といえば、「バタフライエフェクト」や「おくりびと」の最後のシーンを思い出すが、それらは少し演出で独自のスタイルを用いている。私の大好きなシーン達だ。しかし今作は、「英語の話せる現地の叔父さんについていったらそこに母親がいた」という普通の再会のシーン。決してダメではない。とても感極まる素晴らしいシーンだが、もう少しクールな持っていく方が出来たのでは、、、
しかし、再会したはいいものの言葉が通じない。抱き合って泣くことしか出来ない。再会できて泣くほど嬉しいがどこか切ない。しかも、新たに妹ができていた。これも、嬉しいようで切ないような気がする。結局兄貴はもう亡くなっていて悲しい話だが、これらは全てリアルで映画の話としては、心に刺さる展開。

最後にこの映画は、再会してその後のエピローグは特になく、テキストで追加の実話の説明が入り、母親同士の出会った時の実際の映像が入りエンドロールに行く。が、私は実際の映像や写真を挿入するくらいなら、映画のエピローグを最後まで作って欲しいと感じるタイプの人間。「ハートロッカー」でも結構長尺で実際の人物のインタビュー映像が最後に入るが、数行の文字での説明だけで良い。

他のレビュアーああまり気にかけていない点だが、個人的に観ている時にもやっとしたのは、子役と20代になった主人公役の役者とで、同じ人物を演じているはずなのに、人種が変わっていると言うこと。肌の色が子役のこの方が濃く、大人の役者は少し色が白いと思った。これは現地ではそれが普通で単に私の知識不足なのか?あるいは見間違いなのか?
、、、ま、いっか。
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