いの

ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録のいののレビュー・感想・評価

5.0


そして狂気が始まった。



『地獄の黙示録』の製作過程をとらえたドキュメンタリーフィルム(+スタッフ・キャストの証言)。とにかくめちゃくちゃ面白かった。『地獄の黙示録』の内容と、撮影自体とが共鳴しあって、そこに境目がなくなって、狂気と正気とがせめぎ合い、手をつなぎ、魂の極限へと行き着いた旅。撮影は混迷を極めながら、もがき苦しみながら、言葉にならない何かを、皆がつかもうとし、そして実際つかんだのだと思う。『地獄の黙示録』の冒頭のシーンは、撮影の後半で撮られ、マーティン・シーンは、あの撮影で、自身のなかに潜む暗黒部分をさらけ出すことに成功したという話も、何かすごくよくわかる気がした。監督自身も川を遡る旅によって、内面の更なる深みまで到達し、あの王国で最後の最後まで苦しんで苦しんで、狂気とダンスして、そして何かを乗り越えたんだと思う。トラの場面は、本物のトラが出演していたことにも驚いた。あの場面のキャストの恐怖は、演技ではない恐怖だった。カーツの王国では、フィリピンのある部族の民が多数出演していて、あの水牛の神聖な儀式も、その部族で実際に行われていたことだった。戦争すらショーに仕立てるアメリカの欺瞞を(アメリカだけと言い切ることはできないけど)、とても意識して描いていることも理解した。

心の奥底に潜んでいる狂気を、見て見ぬふりをすることはできない。もはやそれは、魂の奥底に堂々と鎮座し、私を誘っている。


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監督の妻:エレノア・コッポラが撮ったフィルムや、エレノア・コッポラのインタビューが多数登場する。その語り口は、冷静。静かな情熱と、物事の本質を見極める確かな目。本当に素晴らしい方なのだと、そのことにも感銘を受けた。
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