映画大好きそーやさん

火垂るの墓の映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

火垂るの墓(1988年製作の映画)
3.8
戦火に翻弄され続けた4歳と14歳の、善悪を超越した生き様。
2度目の鑑賞でしたが、やはり観るのが辛い作品でした。
「死」から始まる作品の中で、最も美しく、最も心を抉るタイトルバックまでのOPシークエンスだと思います。
その後待ち侘びるのは残される兄と亡くなる妹、そして弱々しく妹の名を口にしながら兄も後を追うことになるという悲惨な現実です。
否が応でも、覚悟をもって鑑賞しなければなりません。
原作である野坂昭如の短編小説を、映像作品、アニメーションとして考え得る最高のかたちに仕上げた高畑勲の力量は、言うに及ばないものがあるでしょう。
作中、赤は特に印象的に挿入される色となっています。
兄妹の「死」のモチーフ的な意味合いを描写として差し込みながら、それは戦争における血であり憎悪の象徴とも思えて、どこか身に迫る恐怖感を体現するようでもありました。
戦争描写は言わずもがな緊迫した空気感に満ちており、いつ死んでもおかしくない、それこそ『泥の河』で言及したような、「死」と隣り合わせな状況が痛いほど伝わってきました。
ただ主人公である清太を正義の側として描くだけに終始していないのも重要な要素であり、社会の輪から外れていくのも構わず、生き抜くためには火事場泥棒だって働いて、いや働けてしまう主人公像はハッキリ言って一般の価値観では信じ難いものです。
清太が立派な犯罪行為に手を染めてもなお、現実の人々からは涙なしでは観られない深い兄妹愛を感じるといった感想が出てしまうのです。
これはどうにも全肯定できる反応ではなく、ここにこそ議論する余地があるのだと思います。
私は最初にも書いた通り、本作は善悪を超えた兄妹の生き様が刻まれた、尊いアニメーション作品だと考えています。
善悪は簡単に揺らぎます。ですが、人間にとってはそれらが大きな意味をもち、その価値基準で判断されることが多いです。
警察であれ、常識であれ、そこで線引きをした方が合理的に物事を進めることができるため、当然とも言えるかもしれません。
ですが、人間は元来、そういった価値観のもとで生きてきた訳ではない筈です。
身振り手振りでの意思疎通が、言葉を介したものに発展し、やがて電子機器が生まれ、データ化された意見交換まで可能となった今、この時代、綿々と続いてきた人類の歴史があればこその価値観であると、私は思います。
となれば、立ち返って、立ち止まって考えた際、本当に意味をもつものが何なのかと言えば、それこそ己自身であると言えるのではないでしょうか。
結局、善悪は歴史や環境が作り上げたとはいえ、他人から押し付けられるものに相違ありません。
大事なのは自己においてその行動が正しいと思えるか、それに尽きると思います。
今提唱した価値観を物差しにすることで、清太の行動には一定の道理が見えてきたのではないでしょうか。
そこを覗けば善悪などは微塵も関係ない、生身の人としての生き様が見て取れます。
彼の人生をフィルムに刻めたことこそ、本作が映画として評価される、いや評価できる大きなポイントだと思います。
総じて、戦火に飲み込まれた兄妹たちの、本質的な人間としての生き様に触れられる良作でした!