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ベティ・サイズモアのタケオのレビュー・感想・評価

ベティ・サイズモア(2000年製作の映画)
3.6
レネー•ゼルウィガーは『シカゴ』(02年)や『ジュディ 虹の彼方に』(19年)で披露したような凄まじいパフォーマンス能力を持つ一方で、『ブリジット•ジョーンズの日記」シリーズ(01〜16年)のように誰もが共感できる'等身大女性'をイキイキと演じることもできる非常に珍しいタイプの女優である。このアンビバレントなキャラクターこそ彼女の持ち味だが、本作はそんな彼女の魅力を最大限に堪能することができる至高の1本である。本作の主人公ベティ(レネー•ゼルウィガー)は誰からも好かれるようなウェイトレスだが、粗暴かつ浮気性な夫ジョイス(アーロン・エッカート)との生活には辟易としている。そんな彼女の唯一の楽しみは、病院を舞台にしたメロドラマ『愛のすべて』を鑑賞すること。このドラマを鑑賞している間だけは、自分の味気ない退屈な毎日を忘れることができた。しかしある日、麻薬がらみの事件に巻き込まれたジョイスがベティの前で殺し屋2人に殺害されてしまう。あまりのショックから、彼女は現実を完全にシャットアウト。自らを『愛のすべて』のキャラクターだと思い込み、ドラマの主人公デヴィッド(グレッグ・キニア)に会うためにハリウッドを目指す。以上のあらすじからも分かるように、本作はあまりにもブッ飛んだ不条理ナンセンスコメディである。凄まじい妄想パワーで猪突猛進していくベティに、最早怖いものなどない。ありえない偶然やミラクルを繰り返しながら、ジワジワとデヴィッドの元へ近づいていく。本作の監督ニール•ラビュートは、『In The Company Of Men』(97年)や『僕らのセックス、隣の愛人』(98年)など人間の醜さを悪意たっぷりに描き出すことを得意とした男だが、本作の結末は彼の作品だとは思えないほどに爽やかな後味を残してくれる。勘違いと妄想の果てに本作は、ベティ自身のサクセス•ストーリーとして着地してみせる。この捻れまくった奇怪な物語に、レネー•ゼルウィガーというキャラクターがピッタリとハマっているのだ。だからこそ本作は、彼女の輝きも相まってラビュート監督らしからぬスッキリとした1本となっている。監督自身はインタビューで「まさか私がこんな作品を制作するとは思っていなかっただろう」と嫌味っぽく語っていたが、きっと彼の中にもまだ人間に対する希望が残っているのだろう•••多分だけど。
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