マンボー

男はつらいよ 寅次郎相合い傘のマンボーのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

あぁ、面白かった。

男はつらいよシリーズを全く知らない人には、ストーリーが端正で秀逸なこのあとの17作「夕焼け小焼け」を勧めるが、シリーズを何本か観た人には、リリー初登場の「忘れな草」を観た上で、この第15作「相合い傘」を勧めたい。

夕焼け小焼けは、寅さんの不条理で理不尽なほどの喧嘩っぱやさが、それほど表立たないが、本作には、旅先でのリリーとの口喧嘩による別れの他にも、とらやで頂き物のメロンを切り分けた際に、寅さん分を準備し忘れていたことで、寅さんが大いに憤慨して周囲に当たり散らす「メロン騒動」、しがない居酒屋やホールで歌うリリーを想って、大きなホールで歌わせてやりたいと、寅さんがとらやの茶の間を前に、夢を滔々(とうとう)と語ってみせる「寅のアリア」と、ファンが特別に名付ける名シーンもめじろ押し。

序盤は、東北から北海道へと渡る旅空の下、会社と家族から逃亡して連絡を絶った品のよい真面目なサラリーマンと道連れになる珍道中に、たまたまリリーとも落ち合い意気投合をしながらも、女性のあり方をめぐる考え方の違いから、進歩的なリリーと、保守的であることを隠しきれない寅さんとが激情をぶつけ合う口喧嘩をして、その場で別れ、一時は関係が破綻する。

ところが、旅から戻ると互いに言い過ぎたとの思いもあり、あっけらかんと仲直りし、またぶつかって、気の強いリリーと、普段はリリーを親や兄のように温かく見守りながらも、ふと意地の張り合いになると、引き下がれず子どものように振舞う寅さんとの関係性がストーリーの軸で、45年後の現代の男女関係を先取りするような北海道での大喧嘩、メロン騒動、寅のアリア、相合傘、さくらからリリーへの結婚のお願い、雷鳴の鳴り響く部屋で追わない寅さんと、印象的な名シーンでつながれた人間くさいストーリーに味わいがあり、いつしか、ついつい習慣になっているストーリーの分析も忘れて見事に引き込まれた。

また、寅さんとリリーの二人だけのストーリーだと息苦しいが、船越英二が演じたひたすら真面目でボンボン育ち、世間ズレした品のよいサラリーマンが二人とは対比的なキャラクターでよいアクセントになっており、さらにストーリーの展開の上でも、要所に関わっていて、当時の社会問題なども窺えて、完璧な効果をなしていた。

見終わって、とにかく91分とは思えないほどのシリーズ屈指の没入感、満足感があり、これぞ男はつらいよらしい名品だと思う。アクが強く、こってり昭和感がありながら、胸を吹き抜く不思議に爽やかな風。
いちいち細部にケチをつけたくならず、監督の豪腕に呑み込まれる幸福感。これぞ、男はつらいよシリーズらしい至高の逸品でした。