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父親たちの星条旗のRのレビュー・感想・評価

父親たちの星条旗(2006年製作の映画)
4.7
硫黄島からの手紙を見て、後にこっちの方が先の作品と知り、見る順番間違えたー!と思ったけど、全然問題ナシやった。受ける印象はだいぶ違うやろけど。3つの時間軸を頻繁に行ったり来たりしながらストーリーが進むので、最初は内容がむちゃくちゃつかみにくかった。なので二回見ました。ひとつは①現代(に近い)、第二次大戦時に衛生兵だったドクという老人がぶっ倒れて病院に運ばれる。で、彼の息子がいろんな人に硫黄島で起こったこと、そしてその後に起こったことを聞いてまわる、という形式。このへんの作りは、ひょっとしたら僕の大嫌いな永遠の0に影響を与えたのかもしれない。残り二つの時間軸は、息子に戦場でのエピソードを語ってる人たちのフラッシュバックで、②硫黄島での戦闘、③硫黄島後、が描かれていく。この構造が最初理解しにくいので、分かった状態で見た方がすっきり話に入れると思われる。ストーリーは一枚の写真を軸に展開する。その写真は、6人の米兵が硫黄島の丘のてっぺんにアメリカの国旗を立てている、という非常に象徴的なイメージである。大戦で経済的にもモチベーション的にも大いに疲弊していたアメリカ国内では、この写真が新聞に載って大きな話題に。アメリカの政治家たちは6人の兵士のうち生き残った3人の帰還兵を英雄に仕立て上げ、アメリカ中を廻らせ、国債を募るキャンペーンに利用する。うちひとりは、利用されることでその後の自分のキャリアに役立つだろうと考えて上手く立ち回ろうとするんやけどまだ若輩なので不器用、ひとりは、硫黄島での人々の無残な死に様のトラウマを忘れられず、自分たちが英雄視されることに耐えられなくなる。前半の見どころである硫黄島の戦闘シーンはほんとにすごくて、遠くから飛行機や船が島をボッコボコに砲撃してる画はテンション上がる。あんなに撃たれてるのに微動だにしない島のずっしり感カッコイイ。そしてその後の島上陸はまるでプライベートライアンのよう。残虐描写はあちらのほうが上やけど、こちらは一味違った魅力がある。戦場においてはひとりひとりの命が捨て駒みたいに小さく、無意味に死んでいく人たちがあまりに多い。だけど、客観的にそう見えるってだけで、結局人間はどうあがこうが主観的にしか生きられない。雑魚みたいに死んでいく人間は、より大きな計画のなかで消費される自分の命に対して、死ぬ前の一瞬、どんな思いを抱くのだろう。本人はそれどころじゃないんやろうけど、見てる方はそれを考えずにはいられない。で、戦場という地獄で敵との間に起こることに関しては、誰一人として英雄的な人物なんていない、ということを知悉してるからこそ、3人とも3人なりに、それぞれの度合いで、自分たちの立ち位置に馴染めない。そして、あらゆる瞬間に、戦場のフラッシュバックに襲われる。件の写真の背景やそれにまつわる人々の悲劇が明らかになる後半では、あまりに無念な死があったり、人々の悲しみや苦悩がピークに達するシーンがあったりするんやけど、エモーショナルになることなく恬淡とした滑らかな語り口ですべてを展開する。イーストウッドの演出はミニマルかつ的確で、ダイナミックかつ繊細。世界に完全に吸い込まれてしまいます。ホントお見事! 音楽も素晴らしい。ひとつ問題点を挙げるとすれば、1回目見たとき、戦場で服がみんな同じやし、ひとりひとりの描写が結構アッサリなので、戦場でどれが誰だかわからなくなることかな。主人公の3人ですらよく分からなくなるので、ひょっとしたら我が識別力の乏しさなのかもしれないが笑 最後は、本当の意味での英雄とは一体何なのかを、静かに我々に語りかけ、静かに幕を閉じます。戦争映画としては、硫黄島の手紙の方が良さがダイレクトに伝わる感じで、こちらはちょっとトリッキーでジワジワ来る系なので、2回見た方が良いかもしれねい。現にボクも2回目見て、2回目の方が理解も深まったし、全然よかった。2作ともまた見たい。イーストウッド、素晴らしすぎる。
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