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Jの悲劇のRのレビュー・感想・評価

Jの悲劇(2004年製作の映画)
4.5
冒頭が素晴らしい。草原でピクニックしてるカップル(ジョーとクレア)が、ちょっと離れたところで、突風に吹かれて暴走し、浮き上がりそうになってる気球を必死で止めようとしてるおっさんを発見。気球には彼の息子がひとりで乗っているのだ。即座に周りのみんなが集まって気球にぶら下がり、浮上を止めようとする。しかし、かなり高くまで浮き上がってしまい、危険を察した彼らはひとりまたひとりと飛び降りる。地面から見上げると、ひとりだけロープに捕まってる男が、もはや降りられない高みまで登ってしまっているではないか。そして、限界が来て落ちてしまう。落下した場所に駆けつけたジョーとジェッドは、無残な骸となったその男を見つける。ジェッドは神を信じないと嫌がるジョーに、一緒に祈ってくれ、とお願いする。大変ショッキングなオープニング。この事件が彼らの運命を少しずつ引き裂いていく。まず、真面目で沈思黙考タイプのジョーは、気球から誰も飛び降りなければ、男が死ぬこともなかったかもしれないと罪悪感に苛まれる。ひょっとすると一番に降りたのは自分かも知れない。それにみんなつられただけなのかも…そして、気球はその後問題なく着地したと聞き、落下した男の死の無意味さに打ちのめされ、自分の人間としての無意味さにも対峙することになる。と、それだけでも十分な重荷なのに、あの場を共有したジェッドがジョーに近づき、あそこに二人がいて、一緒に神に祈った。神はボクたちを愛でつなごうとしている、人生に起こるあらゆることには意味があるから、とジョーをストーキングし始める。コイツが死ぬほどキモい。小汚いロン毛に無精髭、細くて背が高くぬぼーとしてる上、優しい色目を送ってくる。ヤバすぎます。行く先々に姿を現しては、むしろきみが合図を送ってきたんじゃないか、受け入れようよ、神の思召しであるこの愛を、みたいな感じで。ヤバすぎます。いままで見たことのあるキモキャラの中でもトップクラス。内的には人生の意味の欠如に苦悩しながら、外的には人生の意味を自分勝手に盲信するストーカーに苦悩する、やがて、ジョーのガールフレンド、クレアもその苦悩に巻き込まれ…という流れ。静謐で内省的なムードのなか、最高に気色悪いスリラーがジリジリ展開するので、かなり好みわかれると思うけど、個人的にはものすごく好きなタイプの映画で、始終ゾクゾク。ハマる人はかなりハマると思う。ジョーを演じるダニエルクレイグはめちゃめちゃ役に合ってたし、妻のクレアは、自分の気持ちに寄り添うことはしっかり要求するくせに、相手の気持ちには寄り添わないという、まぁよくいるタイプの人間で、それをサマンサモートンが怖い怖い演技で演じてる。クライマックスのシーンは、すごい唐突さに思わずうわっ!と声あげてしまったし、オチは全体の流れからはちょっと意外と言える穏やかさ。人間が純然たる主観的な生き物で、ひとりひとりの世界が複雑な現実を織り成し、お互いにわかり合うのがどれだけ難しいかを、スリラーとして巧みにあぶり出した、とても面白い映画やと思いました。
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