シズヲ

M★A★S★H マッシュのシズヲのレビュー・感想・評価

M★A★S★H マッシュ(1970年製作の映画)
4.3
戦争や軍隊へのアンチテーゼが込められたアメリカン・ニューシネマ。だけど崇高なテーマを謳う訳でもなければ、生真面目な問題提起を投げかける訳でもない。本作で描かれるのは痛烈なまでのブラックユーモア。野戦病院に勤務する破天荒な軍医を通じて「戦争の風刺化」をやってのけた強烈な映画だ。

冒頭、負傷者が搬送される中で「Suicide Is Painless」が流れるオープニングから引き込まれる。物語に確固たる大筋があるわけでもなく、基本的には型破りな軍医達が野戦病院で馬鹿騒ぎじみた日常を繰り広げるだけの話が大半を占める。そういった展開を通じて戦争、ひいては当時の米国の時勢を皮肉っていく構図が面白い。つまり「真面目になんかやってらんねえよ」なのだ。

ただコミカルなだけではなく、負傷者・手術シーンは至ってリアルに描いているのが本作の肝。全編に渡って低俗な悪ふざけのようなジョークや展開が飛び交う中、戦争による犠牲者は茶化さず描写している。手術中も軍医達は軽口を叩くけど、執刀そのものは真剣に黙々と行う。「悪戯やどんちゃん騒ぎを繰り返す暢気な状況」と「戦場で兵士が傷付き運ばれる緊迫した状況」がごく自然に共存していて、その空気感の生々しさが印象深い。悲惨な現実が隣り合わせだからこそユーモアを心の拠り所にしているのかもしれない、とも思わせられる。程々に纏まりのない展開もまた「戦場における日常」という世界観を作り出すことに一役買っている。

脈絡もなく終幕を告げられるようなラストシーンもまた印象的。通告に対して喜びを見せる訳でもなく、何とも言えぬ表情を浮かべていた軍医二人。彼らの心境は何だったのか、明確な答えは描かれずに「作劇」として物語は終わる。この奇妙な余韻が何とも好ましい。

色々とやりすぎというかアレな描写はあるし、傲慢な看護婦に対するセクハラ的な仕返しは執拗(っていうか殆どイジメだ)なのでけっこう引く。このへんは拒否反応を示す人のが多そう。笑いのセンスも流石にアメリカンだけど、「棘のあるユーモアによる反抗」という題材はやっぱり興味深い。
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