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裸のキッスのNMのレビュー・感想・評価

裸のキッス(1964年製作の映画)
3.8
勝手にドタバタコメディ風の雰囲気を感じて適当に見始めたが、とんでもない展開の待ち受ける、悲しくて重くて深い作品。
「裸のキッス」とはあることの隠語。作品のなかで明らかにされる。

冒頭、女性が酔った男をぶん殴っている。なぜか女性は丸坊主。

次のシーンではうって変わって、バスで町に降り立った淑女。セールスレディと名乗るが、明らかに妙。
まずは町の警察官に近づくのが彼女のやり方。色んな町で、高級酒だけでなく自分も売り、渡り歩いているらしい。

しかし彼女はある夜を境に、この町の医療施設で熱心に働き出す。
一体この彼女にはどんな事情があるのか。
そして彼女はこの町でやり直すことができるのか……。


ケリーの説得が印象的。
「同じ夜が永遠に続くだけ そして一生悪夢につきまとわれる /中略/ お客を温かく迎え自分をすり減らし心が凍りつく//男にチヤホヤされても妻にはなれない 不健全な暮らしや男たちが憎くなる 自分のこともよ 社会から爪はじきで身も心も休まらない 卑しい女と見下されるだけ」

家主が素敵だった。20年も婚約者を待ち続け、明るく素直、よそ者のケリーも、顔で信用できるからと身分証明を求めない。現代にはない良さがある。

警官グリフは、自分もケリーを買い、ボンボン売りの斡旋までしたくせに、彼女を見下し、更生をさまたげる。
ただそれは、友人がケリーと結婚することになり、友人を守りたいという気持ちからでもあった。

あと数箇所、ケリーが人をぶん殴るシーンがあるが、後になるほど迫力を増す。

無知や弱さが呼ぶ不幸の連鎖はレ・ミゼラブルを思わせた。
特に女性は、きつい仕事しか得られず、精神的・経済的飢えから、身体を売ることも多い。
しかし一旦堕ちるとそこから這い上がることはほぼ不可能。
孤独、迫害、貧困、それでまた男に騙されたり、嘘だと分かっても信じてしまったりするのだろう。
無知でいると、また弱っているとさらに困難に巻き込まれてしまう。

ケリーたちの歌う「LITTLE CHILD (MOMMY/DADDY DEAR)」が美しく悲しかった。作品を象徴する歌。はかない希望を夢見る、ケリーと子どもたちの間には、強い共感があったのだろう。
ただケリー役・タワーズはジュリアード卒の舞台歌手でもあるので、あまりに美声過ぎてこの場面ではすぎて不自然なほどだった。

あのシーンは、何が起こったのか分からず、もう一度観直してしまった。まさかこんな事実が待っていようとは。あまりにもおぞましい。

そしてケリーは一転、窮地に陥る。グリフは彼女を決めつけ追い詰める。
彼女は強い意志で生き抜いてきたので、その分敵も作ってしまっていた。
彼女のピンチに、仕事を辞めてでも手を貸すもの、裏切る物、便乗する者、それぞれの選択が人間の格を表している。
便乗する者の一人が、かえってボロを出し、グリフはケリーの話の辻褄が合っていることを知る。
彼女が町を渡り歩いていたのには理由があった。

ともかくあの子だけでも、すんでのところで助かって良かった。

自分のことはかえりみず、友人や子どもたちのことを守った彼女なら、この先きっとうまくやっていけるだろう。

彼女は、75ドルなら75ドル、25ドルなら25ドルと、ちょうどの額を回収または返金する癖があり、それが身を助けた。
普通なら300ドル全部頂くところだが、それをする人間だったら助からなかっただろう。

メモ
家主が教える寝る前のお祈り
“ Four corners to my bed, Four angels round my head. one to watch and one to pray, and two to bear my soul away. “

他に、
Four corners of my bed, four angels round my head, one to watch and two to pray, one to keep all fear away. “
など多種あり。

イギリスの童謡に、
There are four corners to my bed,
There are four angels there.
Matthew, Mark, Luke, and John,
God bless the bed that I lay on.
というのもある。
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