このレビューはネタバレを含みます
スペイン北部でダウジングできる父アグスティンが自殺した娘エストレリャが父を回想し南へ向かおうとするお話。「疑惑の影」を選んだ理由はあるのかな。
明るくなる部屋からの冒頭カットがとても美しく惹き込まれます。そこから大半はモノローグ付きの回想。回想にしてはおかしいシーンもありますが、それを担保する台詞を忍ばせるのが憎らしい。
長い幼年期のパートは退屈でもありましたが、思春期に入ったときの対比が凄まじい。万能で謎めき敬愛すべき父と、僅かに軽蔑を抱き、いかにも小さく遠く見える父が残酷に描き出されるよう。
この前後半での父娘の様相の対比に合わせて家庭の不和が仄めかされて、さらに南北の寒暖の対比が象徴的に映し出される。南部セビーリャの様子は1カットだに無く、絵葉書で映すのみ。
彼らの舞台は「かもめの家」に絞られていて、父アグスティンの姿が余計に謎めいて浮かび上がるよう。それによってエストレリャの世界が広がりと父の存在との相対化が余計に際立つようでした。
南へ旅立つエストレリャのラストカットがとても美しい。南でイレーネの姿を見つけるのだろうか?内戦も絡む祖父と父の相克の真実も目の当たりにするのだろうか。父の謎は謎のままのラスト。
父娘の姿の移りゆくさまが途方もなく冷徹かつ美しく描き出されていて、平穏ななかにある起伏をドラマチックに浮かび上がらせるようで、タイトルを含めて感銘を受けた傑作でした。