マンボー

男はつらいよ 寅次郎夢枕のマンボーのレビュー・感想・評価

男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年製作の映画)
3.9
シリーズ第十作。(ほぼネタばれ、旧作なのでお許しを)序盤は、甲斐信濃の旅の空。中山道のほぼ真ん中に位置する木曽は奈良井宿(長野県塩尻市)。広い土地とよく整った家財がそろった古い日本家屋を訪れた寅さんは、旧家の奥方といった田中絹代演じるかくしゃくとした品のよい老婆から、昔の仲間がその家を訪問した際に行き倒れて、孤独のうちに生命を落とした話を聴く。

そんな影響もあり、さらに柴又の面々がいともやさしく接してくれたこともあって、いつぞやと同じように地道に堅気で生きると宣言した寅さんに、おいちゃん、おばちゃん、さくらにタコ社長たちは、寅さんの腰を落ち着かせるべく、妻となるべき女性を探すべく方々を当たるが……。

さらにマドンナは、寅さんの幼馴染み、離婚した近所の美容師で、幼い頃には、さくらと二人でデカラッキョウ、チビラッキョウと呼ばれていたという設定の八千草薫。少しおっとりとした上品なイメージは今とも変わらず、若い頃とあってツヤっぽい。

加えてとらやの二階は、御前様の甥っ子の設定で、山田監督の母校でもある東大で物理を教える真面目で不器用な変人助教授役の米倉斉加年が立派なオーディオセットを持ち込んで下宿をしており、八千草薫にぞっこんで恋焦がれながら、勉学一途の経験不足もあって、てんで想いを伝えられない。

そんなぶきっちょなインテリをからかいながらも、寅さんは間を取り持とうとしてみせるが、八千草薫は助教授より、寅さんの奥さんになら、ぜひなりたいと言ってのけて、その率直な思いに驚いた寅さんは腰を抜かしたようにその場にうずくまり、しばらく足腰が立たなくなって、意気地のない情けない姿を見せるストーリー。

あらゆる女性から、お相手は知るも知らぬも振られ続けてきた寅さんが、ずばり慕われて学歴最上位の人物を差し置いて、恋人にも夫にもおさまるチャンスを与えられながら、突然現実として突きつけられると、世の普通の男性と変わらず腰砕けの意気地なしになってしまう様子に、微笑ましいような虚しいような感覚で、力なく笑えてしまった。

序盤に物語の遊びがありながら、全編のつながりが分かりやすいストーリーはこれまでの作品と比べて見やすく、マドンナとの関係にも新味があって、マンネリの打破を図った展開は満足感が高かった。また、いつもの寅さんのようになってしまう米倉斉加年さんの哀れさたるや。

そろそろ二代目おいちゃんにも慣れてきたが、相変わらず全編のオーバーな喜劇独特のリアクションはどうしても馴染まない。それでも、なかなか愉しませてもらい、映画館をニタニタ微笑みながら立ち去ることができたのでした。

やっと気付いた。自分はどんなマドンナよりも、さくら役の倍賞千恵子さんの魅力にこそ、引き込まれているのだと(笑)