マサキシンペイ

2001年宇宙の旅のマサキシンペイのレビュー・感想・評価

2001年宇宙の旅(1968年製作の映画)
3.8
既に過ぎ去った未来。無重力の暗黒空間を揺蕩う不朽の名作。
「ツァラトゥストラはかく語りき」に乗せて観る叡智の暁光。オープニングで既に圧倒される。

クラシック音楽と呼吸音で脚色された映像美は、物語としての「宇宙」に何を求めるのかで評価が分かれる。

単に物質的に自然環境として解するのなら、その環境における現象とテクノロジーが中心的関心になり、科学的視点による考証の確かさが作品の完成度の一因として作用する「SF」というジャンルになる。
しかしこの作品を一般論的に「SF」と解するのには抵抗がある。
なぜなら、この作品の核心であるラスト30分の描写は、科学理論に即した説明がなされず、明らかに人智を超越した存在の表現であるからだ。それをレトリックとしてでも「Science」の枠組みで捉えるのはひどく矮小化した解釈である。したがって、この作品を単純に「SF」と呼ぶのは適切だと思えない。


ではこの作品において、「宇宙」をどのように解するべきか。「宇宙」とは、未知や神秘といった、説明不可能性を意味する概念群を束ねたメタファーである。
つまり、この作品は「宇宙」という存在を、科学的にではなく文学的に表現している。それも神話としてである。
神話は科学的視点から明晰化されない。「不合理なるがゆえに我信ず」るからである。
しかし、恐らく文字としてこの物語が表現されたとしても、歴史に残るような作品にならなかっただろう。歴史的事実として、神の物語は絵画化されてビジュアルイメージを帯びてこそ、その権威を強める。
まさに映画が引き起こした奇跡=神の御業である。
マサキシンペイ

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