朱音

ゾディアックの朱音のネタバレレビュー・内容・結末

ゾディアック(2006年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

ちょっと何をしたい映画なのか理解出来なかった。
実際の事件を基にしたミステリーであり、事件を追う刑事、新聞記者、漫画家を軸に話が展開されている。

事件に関する情報量がとてつもなく多いであろう事は推察出来るが、捜査の進捗状況などあまり整理されているとは言えず、また印象付けるような演出も特になされていないため、矢継ぎ早に次々と出てくる人物の名前などがこちらに定着する前に次の展開、次の展開へと流れていってしまう。
私は鑑賞中はほとんど記憶に残らず、整理も追い付かずで事件の概要を把握しきれなかった。鑑賞後に実際の事件について書かれたWikipediaなどを参照したくらいだ。

一見サスペンスよりも人物描写に比重が置かれているようにも見える。
各キャラクターは非常に個性的で興味深く、何よりもジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニー・JRと、私にとってはもうご褒美というか、たまらないキャスティングなので、たしかに画面を観ているだけで楽しいとは思ったが、実はキャラクターに関してはそこまで深く掘り下げられていない。
グレイスミス以外のキャラクターは密着度が低く、中途退場してしまったりと感情移入させる、またはその人物を十分に理解するだけの描写が足りておらず、グレイスミスは登場シーンこそ多いものの、それこそ事件の虫というか、自身の関心事に対して異常な集中力を見せるという変人気質も手伝って、只ひたすらに事件を追跡する描写に終始する。

個人的に気になったのは事件についての進展や気付き、などについて劇中の人物たちがそれにぶち当たるタイミングと、観客がそこでサスペンス的な衝撃を受けるという、サスペンス映画における構造的な演出が本作ではまるでリンクしていないのだ。
グレイスミスが何かに気付き、その場から飛び上がるかのように情報を漁る場面において、観ている側は完全に置いてけぼり状態になる。

思えば殺人のシーンでもそうかもしれない。本作において最初の犠牲者カップルが車中で銃撃されるシーン、同様に湖畔でカップルが刺殺されるシーンなど、何が起こったのか、誰がどうなったのか、そういったものが非常に分かりにくく描写され、意図的にぼやかしている。
一連のシーンの後で言葉によって結果のみが伝えられるのだ。

実際の未解決事件の捜査もこういうものなのだろうか、月日が経つ毎に事件を追う人間がひとり、またひとりと遠ざかっていく。
上記3人の画面を支配する役者力がとにかく凄まじいので、余計にというのもあるし、物語前半の軽妙活発な音楽や、ドチャドチャした雰囲気、古き良きのノスタルジーを意識した画面作りなどの演出が、終盤に向けて次第に色褪せて淡白化していくような。
終盤のこのグダグダ感、グレイスミスという変人がいなければとっくに風化して誰の目にも留まらなくなっていったであろう無常感は非常にリアリティがあり、今日にも通ずる普遍的なものだ。

犯人および容疑者の人物に、あえてキャラクターとしての要素を一切持たせなかったのも素晴らしい。


不思議な作品で、もやもやと、何か掴みきれない。この映画で描かれる事件の様に。
噛めば噛むほど味が出てくるのだろうか、この映画。
ただ、単純にエンターテインメントとして魅力的な要素は随所に見られる。
朱音

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