たにたに

祇園囃子のたにたにのレビュー・感想・評価

祇園囃子(1953年製作の映画)
4.2
【基本的人権の尊重】2022年166本目

祇園では名の知れた舞妓"美代春"の元へ、舞妓修行を懇願しにくる1人の若い女性。
栄子は母親を亡くし、頼りのない父親を離れ独り立ちする覚悟を見せる。

華やかなに見える世界でも、実は苦悩は山ほどある。仕事とプライベートの境界線を、厳しい現実世界に踏み倒されながら、男性社会の中でもがく女性達を舞妓の視点から描写する。

夜の世界に絡む、男達の見栄や保身のために動く醜い金の流れ。
"仕方がない"と社会の成り立ちを諦めとも役割とも捉える美代春と、
"そんなのおかしい"と、若い視点で妥協や諦めに抗う美代栄。


"ねぇちゃんはアバンギャルドや"
"憲法に定めた基本的人権の尊重があるのに、男に口説かれたらなぜ断ってはいけないの?"

これら美代栄の発する言葉には、嫌なことは嫌、大人の古い考えには声を上げて対抗すべきという先進的な勢いを感じられる。


この作品には非常に共感を寄せざるを得ない。
62歳の男からの婚約依頼への困惑する舞妓の姿もありながら、彼女達は自己の役割を受け入れている。

美代栄のように言葉通り男性に噛みついて抵抗することで、仕事を失う脆さを思い知らされる。
"おかしい"という勇気ある声は闇に葬られ、そういうものだから、と一般通念の陰に追いやられる。

麗しくも魅力的な世界観を演出しながらも、醜い世界へと我々を招き入れる。

作中にはこんな言葉がある。
「当たり前のことでは人の気を惹けない世の中」だと。

当たり前を脱するために、我々はエスカレートした行動をとりがちである。
当たり前なんて誰が決めたのか。

伝統への敬意。
新しい観念の創出。

この二つの相反するものを、ハイブリッド化することが世の中をよりよくする"かも"しれない。
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