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浪華悲歌の小のレビュー・感想・評価

浪華悲歌(1936年製作の映画)
4.1
角川シネマ新宿で開催の溝口健二・増村保造映画祭─変貌する女たち─にて鑑賞。

自分にとっての女優・山田五十鈴さんって、テレビ時代劇『新・必殺仕事人』の女元締「おりく」。弱い者の恨みを晴らす闇家業のボス役の彼女に、この人は大物に違いないと子ども心に強く印象に残っている。

その山田五十鈴さんが、例によって、男性と社会に踏みにじられながらも、強かに生きていく女性を演じる。本作と本作のすぐ後に製作された『祇園の姉妹』によって、彼女は女優の地位を固めたとされるけど、納得。

そもそも彼女ありきの映画だったらしいけど、とにかく演技が良くて、近代的な女性像ってこういうことじゃないの感が凄い。「おりく」の子孫がこの女性だと言われても信じちゃいそう。

大阪の薬問屋に勤める少し気が強そうな若い女性。彼女の家族は貧乏で、父は借金を抱えている。大学生の兄は就職が決まったにもかかわらず、学費を支払うあてがなく卒業できるかわからない。

彼女は社内に恋人がいるけれど、家族のためにやむなく金持ちの愛人となる。そして、愛する恋人のため、貰う物を貰ったら早々に失敬しようとする彼女だったが…。

彼女は自己犠牲精神満点なのに、お金を工面する方法が悪いからと、自分ことは棚に上げる周囲の人達からとても冷たく、厳しくあたられる。彼女同様、観ているこちらも怒りと悲しみで、胸が熱くなる。

しかし経験を積むことで強く変貌していく彼女のラストシーン、あの顔の右上が少し隠れるような斜めの帽子のかぶり方。ロングショットの溝口監督でも寄らざるを得ない、颯爽としたカッコ良さ。

すでに子どもをもうけていたとはいえ、まだ19歳。彼女が精神的に大人だから演技ができるのか、演技が彼女を大人にするのか…。

完璧な演技を求めて、それに応えてくれる俳優がいる。溝口監督って、俳優の演技に興奮すると我を忘れて手をブルブル震わせる癖があったというけど、その気持ちが少しだけわかった気がした。
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