ヨーク

ゴールデン・エイティーズのヨークのレビュー・感想・評価

ゴールデン・エイティーズ(1986年製作の映画)
3.2
ちょっと前に『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が英国映画協会が10年ごとに発表している「史上最高の映画100(2022年)」において第1位を獲ったことで一躍再評価が進んだシャンタル・アケルマンが撮ったミュージカル映画がこの『ゴールデン・エイティーズ』である。ちなみに長編のアケルマン作品はこれが二本目。
とりあえずまぁ、率直な感想からいくと大して面白くはなかったね。ただ全く一ミリも面白くはなかったというわけではなく”ミュージカル映画としては”面白くなかったというのが正確なところだろうか。
とりあえずざっとあらすじを書くと『ゴールデン・エイティーズ』とタイトルにあるように描かれる時代は80年代で、舞台は多分パリの地下にあるショッピングモール(現在の日本でいうイオンモールみたいなやつかな)の中の美容室とブティックである。そこで繰り広げらっるチープな恋愛模様をコミカルかつシニカルに歌と踊りと共に描いたミュージカル映画、という感じですね。
ただ本作は今現在ミュージカル映画と聞いて多くの人が思い浮かべるようなディズニー風な感じではなくてアメリカのテレビドラマの特にシットコム系の舞台風ドラマといった風情の作品である。『フルハウス』のタイトルを挙げるのが一番分かりやすいだろうか。あの手のドラマでは個人的には所ジョージが吹き替えをした『アルフ』が一番好きだが。連続ドラマではないしミュージカルでもないが固定されたシチュエーションでわちゃわちゃとした舞台感のある作品といえば吉本新喜劇とかも結構ノリは近いかもしれない。
まぁそういうシチュエーションでドタバタとしたラブコメが繰り広げられるわけですな。ぶっちゃけそのメインのストーリーに当たる部分はそんなに言うところはない。誰と誰がくっついただの別れただのというベタなラブコメでしかないので。ただ作品のテーマとしては、これもベタではあるのだが消費社会への批判や男の愛だけを求める女の滑稽さとかを皮肉たっぷりなパステル調のカラフルな色彩と共に繰り広げられるのだ。だからきっと本作の内容が卑俗で下らない内容だというのはアケルマン的には計算通りなのであろう。恋愛に左右されて人生を右往左往する女の姿もショッピングモールのショーウィンドウに映る商品と同じように消費されていくだけのものなのだ、と。
まぁそういうことが本作のテーマにはあるんだろうなということは分かる。分かるけど、本作で致命的にダメなのはメインの見せ所としてあるはずのミュージカルシーンがしょぼいんですよ。もうしょぼしょぼ。歌もダンスも楽曲も全部低レベル。もしかしたらそれも消費されるメディアという批評性の文脈上での演出なのかもしれないが、あくまでもジャンルものとしてのミュージカル映画として観るのなら本作のそれは舐めてんのかよ、と思ってしまうほどにお粗末なものでしたよ。もうそれが決定的にダメだと思ったね。
例えばアクション映画、その中でも特に分かりやすい例としてジャッキー作品に代表されるような香港アクション映画を例に挙げると、その作品のストーリーやテーマ性なんてあってないようなもんだとしても肝心のアクション部分さえクオリティが高ければ満足できるじゃないですか。実際に映画の中でやってることはジャッキーがハフハフ言いながら逃げ回って高いところから飛び降りたりしてるだけだとしても、そのアクションが面白ければどんなお話だったかなんてどうでもいいんですよ。それはただひとえにアクション映画としての需要に応えているからだと思う。それでいくと本作は立派なテーマや問題意識は持っているかもしれないが、ミュージカル映画としての肝心要の歌と踊りのシーンが全然面白くないのである。これはもうダメだな、ってなりますよ。
くだらねぇなぁと思うような恋愛模様に翻弄される親子二世代にわたるバカバカしいお話とかはテーマにも合致していて面白いのに、稚拙なミュージカルシーンで台無しになるのである。そこが惜しい映画だったなぁ。映画ではなくなってしまうが、例えば高橋留美子なら全く同じ脚本でめちゃくちゃ面白くて尚且つ下らない恋愛コメディ漫画を描くと思う。アケルマンには下らなくも面白おかしい物語を演出するためのツールとしてのラブコメとかミュージカルといったジャンルに対するリスペクトが足りなかったのではないだろうか。多分アケルマンはゾンビ映画撮っても説教臭いだけでつまんねぇ作品撮ると思うよ。
いっそのことミュージカル部分を全カットして普通の恋愛ドラマとして描いた方が面白かっただろうなと思うよ。そういう感じで惜しい映画でしたね。
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