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或る夜の出来事のkomoのレビュー・感想・評価

或る夜の出来事(1934年製作の映画)
4.2
マイアミ港外に浮かぶヨットから1人の女性が海へと飛び込んだ。彼女は富豪の娘エリー(クローデッド・コルベール)。父親から結婚を反対され監禁状態にあったエリーは、ニューヨークにいる婚約者に逢いに行くため脱走を図ったのだった。
夜行バスに乗り込んだエリーは、新聞記者のピーター(クラーク・ゲイブル)と相席になる。まるで馬の合わない2人だったが、奇妙な縁によってニューヨークへの旅を共にすることになる。


『素晴らしき哉、人生!』のフランク・キャプラ監督によるロマンティック喜劇。
この映画で初めて『スクリューボールコメディ』という言葉を知りました。
ヒロインを演じたクローデッド・コルベールの表情がどれも好きだなぁ。目鼻立ちもくっきりしていてまさに銀幕女優という風情です。
クラーク・ゲイブルも男性としての魅惑がふんだんで、ときめいた女性客もさぞ多かったろうな。この時代の映画の中って本当に楽園みたい。
ウィットに満ちた台詞が矢継ぎ早に交わされ続ける様子は今見ても遜色がないほど面白いため、これが1934年の作品だということに驚かされました。
ラブ・コメディという概念はこの映画が元祖のようです。そのジャンルが生まれたこと自体も革新的だけれど、『第1号』でありながらそのジャンルの方向性を後世までしっかり固めてしまうほどの完成度を誇っていることに敬服してしまいます。

作中で何より魅力的な小道具は、安宿で一緒に眠る2人の間に築かれた『ジェリコの壁』(言葉の由来はヘブライ聖書だそう)。
この時代の映画は男女間の愛描写に厳しい検閲があったと思いますが、それを巧く逆手に取ったとも言える愛の魅せ方が凄い!
男女の夜の逃避行。駆け引きの詰まったスリリングな旅も良いけれど、『女性が男性に怯えずにいられること』こそが、娯楽作品にとって最大の条件であり最大のロマンだと思います。

過干渉のあまりエリーを苦しめていたお父さんは、実は意外にも話のわかる男でした。最後にすごく粋なことをしてくれます。
何はどうあれ娘の幸せが世界中で一番大切。そんな声が聴こえてくるような優しい物語でした。
そしてラストのあの演出、とにかく爽快です!
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