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ナイト・オン・ザ・プラネットのkomoのレビュー・感想・評価

4.2
【シート一枚隔てた他人の心】

タクシー運転手とその乗客の交流が描かれる、5本立てのオムニバス映画。それぞれの作品に繋がりはなく、全く異なる土地の5組の人間模様が繰り広げられます。
映像の大部分がタクシー内部の光景であるため、ほぼ会話シーンのみ。
タクシーという狭い空間に他人と共に閉じ込められる居心地の悪さ、心許なさの空気感がとてもリアルですが、皮肉とエッジの効いた会話にはフィクションならではの良さがありました。タランティーノ作品に観られるような雑談シーンが好きな方はきっとハマると思います。

最も印象に残ったのは、盲目の女性客と不躾な質問を繰り返す運転手のエピソードです。
視力がないとは言え、研ぎ澄まされた感覚で物事の本質を見ている女性。
その女性とのひとときを経て、粗野な運転手の心境には変化がもたらされます。
心温まるお話かと思いきや、最後の最後で皮肉的な表現が入るという、苦いユーモアに彩られたエピソードでした。

この無神経な運転手は、それでもこの女性客と過ごしている間、『普段は使わない感覚を研ぎ澄ませていた』のだと思います。
そして、彼にそうさせたのはきっと、
『座席の背もたれ一枚分の距離』なのです。

この二人がタクシーという小さな部屋の中で、運転手と客という立場で出会わなければ、運転手の心境は変わらなかったでしょう。
バックミラー越しに、彼女の盲目の瞳を追いながら、目的地に到達するまでのごく短いタイムリミットの中で、彼女の私生活に対する浅はかな疑問を口にしていなければ、運転手は何の発見もしなかったでしょう。
運命論というには些末な会話でも、この映画の意義はそこにありました。

この作品は2020年の映画納めとして観た作品でした。
最近はレビューを書く気力がなく更新が空いてしまいましたが、また少しずつ記録していけたらと思います。よろしくお願い致します。
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