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巴里のアメリカ人のkomoのレビュー・感想・評価

巴里のアメリカ人(1951年製作の映画)
4.4
退役したアメリカ人のジェリー(ジーン・ケリー)は、派兵先のフランスに住み続けており、画家として生計を立てることを夢みている。そんなジェリーは同じアパートに住むピアニストのアダム(オスカー・レヴァント)や、その友人である歌手のアンリ(ジョルジュ・ゲタリ)と親しく過ごしていた。
ある時、ジェリーの絵が初めて購入される。購入者である富豪の女性・ミロ(ニナ・フォック)は、ジェリーの金銭的援助まで申し出る。ミロから心を寄せられていることに気づくジェリーだったが、一方で酒場で出会ったリズ(レスリー・キャロン)という女性に一目惚れし、熱烈なアプローチを開始していた。
しかしリズは実はアンリの婚約者で……?



【本当の僕は踊れない】

今年ララランドのドルビーサウンド上映があったので、往年のミュージカル映画を復習していました。
そのための必修科目とも言える本作。古い作品とは言え、なんて美しいカラー映像でしょうか……!
最先端の映画以上に惹かれる映像美でした。目が冴えるようなパリの色づき、主人公の語りと共にアパートメントのいろんな部屋が映る愉快な導入、そして18分にも及ぶ主人公の空想ミュージカルシーン。アカデミー各賞を総なめにしたというのも納得で、当時にとって本当に革新的な作品だったのだと思いました。

ジーン・ケリーがおちゃめで凛々しくて最高にかっこいい!不躾なところもあるキャラクターですが、ジーン・ケリーだったら憎めない……。
子供たちに英語を教えるシーンが微笑ましく、ジェリーと街の人たちとの交流をもっと沢山観たかったなと思います。

そしてジーンが本作にプッシュしたダンサー、レスリー・キャノンがとにかく愛くるしく、キレの良い名演を見せてくれます!
アンリがリズのことを友人に紹介するシーンがとても良いですね。愛する女性のことは決して一言では紹介できないのだという思いの丈が伝わります。そしてアンリの語りをバッグに様々なシチュエーションで踊るリズは、彼による賞賛の嵐に引けを取らないほど魅力的でした。

想い人が共通していることも知らず、ジェリーの恋の相談に乗るアンリ。唯一事情を知っているアダムの苦い表情がコミカルで見所です。

お金でジェリーの愛を勝ち取ろうとするミロは嫌な感じもありますが、彼女の孤独を受け入れてくれる男性との出会いを切に望みます。

極め付けは皆様も述べられている、終盤の18分間の空想シーン!
セリフが一切ないので正直長く感じられましたが、こういった手法が革新的だった時代、多くの観客に自由な思考を与えるための18分間となったのだろうと思います。

このミュージカルシーンの肝は、ジーン・ケリーの役柄が、『雨に唄えば』の時のような映画スターではなく、『画家』であるというところ。すなわち、このジェリーは現実ではここまでのダンスはできないので、この空想シーンは完全なる夢幻の世界であることを表しています。
ミュージカルは現実と空想が入り交じるのが大きな魅力だと思っているのですが、この作品はそういった抽象表現を楽しむ手段を多くの人に与えてくれた先進作なのではないでしょうか。

これを観た後、ララランドの空想シーンを劇場で再鑑賞(そして数回目の鑑賞にも関わらずまた号泣…何度観ても泣けます…恐るべしララランド…)。
まさに本作のエッセンスが端々に感じられるオマージュシーンであることがわかり、嬉しい映画体験になりました。
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