このレビューはネタバレを含みます
設定の妙。
リアリティラインの線引きが上手。
一生をエンターテイメントとして見守られる男がいる、見守る社会がある。
現実世界を通せばまず不可解なその現象が、するりとこちらの腑に落ちる。
スターウォーズが「俺の宇宙ではそうなんだ」理論で粗方片付くようにトゥルーマンの世界ではそうなんですね。
しかしどれだけエクスキューズで予防線を張ろうとも、設定から生まれる齟齬に白ける映画があるのもまた事実。
この作品は映画と現実の間を、ジム・キャリーが実に上手に取り持っている。
彼のコミカルさは笑いを誘うためのアイコンでありながら、時には無邪気で無知な男の哀愁を感じさせ、そして段々とシリアスに傾いて行く展開の最後の清涼剤となる。
全編を通して明るく和やかな雰囲気だが、実際は中々にダークな世界観だ。
人生を自分以外の為に操作されるグロテスクさ、哀れな男の根幹を描いたうえで尚、未知なる希望を選択するラストは美しさと爽快感の調和した深い余韻がある。
所詮は皆他人事というすぱっとシニカルな後味を含めて、とても印象深い終わり方だった。
海と空の狭間に浮かぶ、あのドアの向こう側には私たちの見知った世界がある。
不条理で、退屈で、不安に満ちて、けれども何と無く先の想像がつく世界。
トゥルーマンのこれまでは人が求めるおよその幸福が確約された、言葉通りドラマティックな人生でもあった。そしてこれからも、望めばその暮らしは永久に手に入る。
しかし彼はドアの向こうへ消える。何の不満もなく人生ゲームの駒を先へ進めるその道なりに現れた、1つの予期せぬ出逢いのためだけに。
その後姿は満ち足りた生活を飛び出す若さ故の蛮勇に導かれたのではない。まるく閉じた世界にさよならを告げた彼は、選択したのだ。
不確定要素が入り混じる、カオスの集大成こそが人生だと。
私達は着の身着のまま、会いたい誰かに向かって駆け出して行ける、そんな尊い世界の住人なのだ。
時に人生に退屈を感じてしまう時にじんわり噛み締めたい映画。